『歴史を拓いた明治のドレス』

日本近代化の様相を示すドレス

2022年12月号 連載 [BOOK Review]
by 河西秀哉(名古屋大学大学院人文学研究科准教授)

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『歴史を拓いた明治のドレス』

『歴史を拓いた明治のドレス』

著者/吉原康和
出版社/G.B.(1800円+税)

皇室行事を見ると、皇族の女性たちが美しいドレスを着用している時がある。それはどうしてなのか。なぜ和服ではなくドレスなのだろうか。

本書は『東京新聞』に連載された記事などを加筆・修正しただけに、非常に読みやすい。宮内庁担当記者である著者は、明治天皇の后であった美子皇后(昭憲皇太后)着用の大礼服(マント・ド・クール)が修復・研究・復元されるプロジェクトが動き出したことを契機に、全国に残された皇后や皇族、大名華族の宮廷ドレスをも合わせて取材。著者が全国各地に出向き、足で稼いだ知見が、本書にはふんだんに盛り込まれている。それだけではない。宮内公文書館などで丁寧に史料を読み、的確な識者のコメントを配することで、より立体的かつ複合的な視点で、皇后を含めた女性皇族の洋装化と近代国家としての日本の出発の関係性を描く。

私が興味深く感じたのは次の二点だ。第一に、昭憲皇太后が国産の大礼服を着用していたという事実を明らかにしたことである。一見すると、明治維新後の近代化はイコール西洋化であったように感じる。伊藤博文ら政府首脳は、外国公使らに洋装した皇后の姿を見せることで、世界に日本が近代化し、自分たちも同じ土俵に立っていることをアピールしようと試みた。しかし、日本でそれを製作する技術は未だ発達していなかった。それならば、正直、西洋のドレスをそのまま直輸入して着用した方が手っ取り早い。

ところがそうはならなかった。皇后は「思召書」のなかで洋装の奨励と国産服地使用の方針を示し、自らの大礼服も輸入品ではなく国産とし、日本語刺繍を施したことが今回の大礼服修復プロジェクトで明らかとなった。日本の近代は、単純に西洋に追随したとは言えなさそうなのである。このように、皇后の服からより実態に則した日本の近代化の過程が見えてくる。

第二に、皇后時代の上皇后や三笠宮家彬子女王など、現代の皇室の女性たちによる修復・研究への支援の動きを提示したことである。本書でも指摘されるように、大礼服などのドレスは様々な場所に下賜され、現在、その保存が困難になっていることも事実だ。正直、その存在すら忘れ去られているとも言える。

しかし、そのドレスには日本の近代化の様相を示す状況があることは先ほど述べたとおりだ。このまま朽ちていくのを待つのではなく、様々な形で支援の動きがあることを本書は示すが、それは私たちに歴史資料のあり方や保存の重要性を突きつける。皇室だけではなく、私たちも考え、取り組まなければならない問題だと言えよう。

著者プロフィール

河西秀哉

名古屋大学大学院人文学研究科准教授

   

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