2015年9月号
LIFE [特別寄稿]
by 大越 武(日本不動産ジャーナリスト会議幹事)
住宅・不動産業の世界に、今もって暗黒大陸的なところが二つある。一つは、不動産流通仲介業における両手取引の悪弊で、とりわけ現在問題化している、いわゆる買主(顧客)の「囲い込み」仲介取引。
もう一つは、マンション管理をめぐって、自主管理マンションや増え続ける老朽マンション、管理組合役員のなり手不足や不祥事など「管理不全マンション」が増大する一方で、このまま放置はできず、新たな「管理ルール」の制度化が必要とされている問題である。
前者の「囲い込み」取引の問題は、宅建取引業者が売主・買主の双方から仲介手数料をもらうことを狙って物件情報を隠すもので、結果、買主に高い住宅不動産を買わせる顧客無視の悪質な取引が横行している。利益相反の両手取引の悪習の一つで、長らく放置されてきたが、国土交通省ももはや放置できず、近く抜本的な具体策が打ち出され、来年にも是正されよう。
後者の今回取り上げるマンションの管理不全問題は、さまざまな問題が複合的に折り重なっており、深刻で、根も深い。このため、国交省では2012年1月に「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」(以下「検討会」、座長=福井秀夫政策研究大学院大学教授)を設け、異例の丸3年以上の長きにわたる11回もの検討会を開催し、その報告書を5月8日に公表した。その報告書をもとに近くパブリックコメント(意見公募)をし、新たな管理ルール「マンション新標準管理規約」の制度化を目指す段取りでいる。
ところが国交省のこの検討会報告書の内容について、パブコメを出す前に、早くもマンション学会や管理組合団体、管理業界団体等が猛反発したため、7月末の時点でもまだパブコメを出せずに、内部で揺れ動いている。
報告書のポイントは、大きく次の六つに分けられる。①素人集団の管理組合役員に、外部の専門家を活用した多様な管理方式を用意してガバナンスの強化を図る、②組合役員らの利益相反取引の防止とそのためのガイドラインの策定、③総会での議決権は各住戸の専有面積割合となっているが、より合理的なマンションの財産価値を反映させた「価値割合」(最初の販売価格割合)を新たに加える、④管理組合と自治会との混同を整理し、不正の温床になっている「コミュニティ条項」活動を削除する、⑤総会における議決権の代理行使の範囲は、組合員と利害関係の一致する者とする、⑥管理組合の財務会計情報と管理情報(耐震診断の有無等)の適時開示、などかなり網羅的となっている。①については、左ページの図のように管理組合理事会の役員の中に外部専門家を入れる案のほか、多くのパターンが想定されるだろう。
この中で、最大の争点となっているのが、④の「コミュニティ条項」の削除問題。現行の標準管理規約では、管理費を「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成に要する費用」(第27条)に充てることができるのに加え、管理組合の業務として「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」(第32条)が認められていることから、管理組合を自治会・町内会と混同して、強制加入団体である管理組合が行う業務に、自発的な任意加入団体の自治会(町内会)活動の要素を持ち込んでいる事例が多くみられる。この結果、強制徴収される管理費から、参加自由な自治会費や町内会費が支払われてトラブルが多発し、訴訟にまで発展している。
また最近は、マンション購入の際の重要事項説明の販売条件に、自治会(町内会)費の納入が入っており、これが1戸当たり月100円か200円、都心部などでは300円も徴収され、年にして1戸3600円、100戸のマンションだと年間36万円、300戸の超高層タワーマンションだと年間108万円もの多額な管理費が強制徴収されている。こうしたおカネが自治会との「交流費」などの名目で、管理組合役員の飲み食い費として使われるなど、「ムラ社会」的な組合役員のなれ合い構造と化して、内部の監査・チェック機能が全く働かず、内輪なだけにそのまま泣き寝入りしているケースが多くみられる。
こうした管理組合と自治会との管理費の混同関係や、管理組合役員による管理費の資金流用や飲み食い等に不正に使われてしまう公私混同の弊害事例を生む背景となっている根拠が、現行の「コミュニティ条項」であることから、国交省の「検討会」では、この二つのコミュニティ条項を削除し、その上で適切な運用によるコミュニティ活動を防犯・防災面などに積極展開すべきだとしている。
全国で600万戸ほどのマンションが建てられ、日本の人口の10%が住み、すっかり都会の住宅として定着したマンションではあるが、その建物の居住資産価値の向上・最大化を目的にしているマンションの管理組合の現状は、老朽化に合わせて区分所有者の高齢化・賃貸化・空室化が進み、組合役員のなり手不足や、不適切役員の長期継続による利権・癒着・腐敗管理の混乱や不祥事、内部対立等の問題も多く、その業務体制の管理運営が、十分に機能していない。組合役員の理事会構成を見ても、居住者の素人集団ばかりで、会計監事も外部の専門家に頼むわけでもなく、ガバナンス、会計の透明性に著しく欠けている。
マンション管理団体や管理業団体が、自分らに都合の悪いコミュニティ条項の「削除」だけにこだわって猛反発しているが、その一方で、こうした組合運営のガバナンス不全、不透明性、非公開性などに眼をつぶっているのでは、その役割は果たせない。パブコメが出た段階でこうした面でも積極的な意見・提言が望まれよう。いずれにしろ、マンション管理問題は、まだまだ未熟な発展段階にあるだけに、全居住者のための時代に即した新しい管理ルールが生まれてくるのが、一刻も早く待たれるところである。