中国で大火傷「LIXIL藤森」更迭も

江守も昭光通商も、中国経済悪化で3ケタ億の不正会計が続々。監査法人は何をしている。

2015年7月号 BUSINESS
by 山口義正(ジャーナリスト)

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特別損失の計上について記者会見するLIXILの藤森義明社長(6月3日)

Jiji Press

中国の孫会社で粉飾決算が発覚して660億円もの特別損失を計上することになったLIXILグループ、中国現地法人の暴走で経営破綻に追い込まれた江守グループホールディングス、中国顧客の経営が行き詰まった影響で連結自己資本の7割が吹っ飛んだ昭光通商――。原因は様々だが、その発覚は大なり小なり中国経済の悪化が影響している。日本はいよいよ中国経済の悪化を対岸の火事として「ザマみろ」的な態度で傍観していられなくなった。

経営破綻や決算発表を延期しなければならないほどではないにせよ、中国関連の損失を計上した企業は少なくない。ユニチカ、国際紙パルプ商事、遠州トラックなど、時価総額の軽量級銘柄まで目をやると、中国の事業環境が悪化したことで合弁契約を解消したり、固定資産の減損処理を迫られたりで、損失を計上した企業は意外に多い。今期はさらに増えるだろう。

スター経営陣が裏目

株式市場では日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)が高値圏で推移しているのに対し、いわゆる“中国関連銘柄”の上値は重く、ひところ中国向け売上高が急増したとしてもてはやされたコマツやユニチャームなどはそうした傾向が顕著だ。前出の昭光通商も、日経平均株価の採用銘柄である昭和電工の上場子会社であり、間接的とはいえ株価指数に影響が及んでいるとみていい。

だが、中国問題に炙り出されて浮かんできたのは、日本企業の会計監査に対する不信感だ。

水栓金具を手掛けるジョウユウは、住設機器大手LIXILが買収した独グローエの上場子会社。本社はドイツに置いているが、主戦場は中国で、経営陣も中国人だ。2013年にLIXILが3800億円もの大枚をはたいて買収したばかりだが、ここで会計上の“水漏れ”が発覚し、破産に追い込まれた。市場の関心はLIXIL本体への影響に向かいがちであるうえ、LIXILも「現時点では影響を精査中」としか話さないが、グローエのダメージ次第ではLIXILの財務上の負担が膨らむ公算もあるだろう。

LIXILと独グローエの関係は、損失隠し事件のオリンパスと英ジャイラスの関係に似ている。ジャイラスは他社を買収したことで、製造業でありながら総資産の約半分をのれん代で占めていた。グローエもジョウユウを買収した際にのれん代を抱えているとみられ、LIXILはそのグローエを買収したため、のれん代は二重になっているはずだ。LIXILは、今期から国際会計基準(IFRS)へと移行する予定であり、ジョウユウの破産によってのれん代がどのような影響を受けるか予断を許さない。

LIXILはトステム(旧トーヨーサッシ)とINAX、新日本軽金属、サンウエーブ、東洋エクステリアなどの寄り合い所帯。立志伝中の人、故潮田健次郎が一代で日本有数のサッシメーカーに育てたトステムは別としても、それ以外は「二番手企業の寄せ集め」(信用調査会社)。潮田の長男で怜悧な知識人、洋一郎取締役会議長(前会長)はGE出身の藤森義明を社長にスカウト、野村ホールディングスからも筒井高志を副社長(M&A担当)に起用するなど、豪華なスター経営陣にLIXILを任せてきた。

ところが、いったん不始末が発生してしまうと「所詮は門外漢の寄せ集め」という一面が浮かび上がる。彼らの心の逸(はや)りが躓く一因だったのだろうが、ドライな潮田取締役会議長はいち早く3月時点で藤森を「あれは日本人じゃないから」と財界人の前で語っていたというから、容赦なく社長(藤森本人は辞意を否定)を斬り捨てる可能性が出てきた。

化学商社の江守グループの破綻劇もお粗末だった。

地域別セグメントが比較可能な直近3~4期を見ると、江守は中国での売上高が異様な拡大を見せ、全社ベースの約7割に及んだ。この間の売上債権回転日数は90日台で安定的に推移してきたが、増収増益を続けてきたにもかかわらず、営業キャッシュフローは赤字が続いていた。この間の運転資金不足を手当てするため、借入金は雪だるま式に膨らんでおり、不正会計の典型的な兆候の一つだろう。

しかし江守が弁護士に依頼してまとめさせた調査報告書などの開示資料をどう読んでも、監査法人が早い段階から警報を発していたとは思えない。

財務諸表や報告書を細かく検分するまでもない。総資産が1千億円余りの企業で500億円の齟齬が見つかり、約220億円だったはずの自己資本は、実際には343億円もの大幅な債務超過だったのだから、「監査法人は何をしていたのか」と謗(そし)られても言い訳のしようがあるまい。結果から見て、「監査の限界」として片づけられる問題ではなく、「監査の失敗」であろう。

LIXILや江守の問題だけなら、個別企業の不始末として片づけられた。しかし折悪しく東芝の不正会計問題が重なったことで、外国人投資家の怒りの矛先はふがいない監査法人に向けられようとしている。

新日本監査法人に悪評

「シンニホンを追い出すにはどうしたらいいと思う?」

5月下旬、海外の有力な投資ファンドの幹部が来日し、会食する機会を得た際に筆者は、こんな質問を受けて面食らった。シンニホンとはもちろんオリンパスや東芝の監査を受け持ってきた新日本監査法人のことだ。彼らがストレートな物言いをするからには、訴訟を含めた何かを計画しているのかもしれない。同時に日本の監査法人が外国人投資家からどのような目で見られているのか、筆者は改めて思い知らされた。

新日本に限った話ではあるまい。5月の決算発表では、LIXILでトーマツが、江守ではあずさが槍玉にあがった。外国人投資家は、日本企業が不祥事のたびに立ち上げる第三者委員会が、時に責任の所在をうやむやにしてしまう隠れミノになることも、よく知っている。

投資家にとって、不正会計をいち早く見抜いて企業や株式市場にアラームを鳴らせない監査法人にどんな存在意義があるのだろう。中国経済の悪化に伴って同様のケースが続々と浮上するようだと、大手監査法人といえども外国人投資家から引導を渡される。   

(敬称略)

   

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