千葉で多発「東京直下地震」の予兆
震源域が広がった首都直下の被害想定は死者12万4千人、避難所生活者900万人、被害は最大420兆円に上る。
2014年1月号 [避難所生活者900万人!]
西之島沖で噴煙を噴き上げる新島(11月21日=海上保安庁提供)
Jiji Press
まもなく新しい年を迎える。3月には東日本大震災から満3年になる。復興は遅々として進まない。それとは裏腹に、日本列島の地殻は震災の影響を受けて日々変容を遂げている。地震が続発し、火山活動も活発だ。大震災を引き起こした「東北地方太平洋沖地震」(正式名称)は、日本列島の「地学的な体質」を一変させた。余震が今も続き、福島、茨城、千葉の内陸部で地震が急増した。日本列島では震度5程度の地震が「こともなげに発生する」ようになってしまった。余震だけでなく誘発地震も多発し、従来と異なる地学現象が起こりやすくなっている。地震だけではない。本州から遠く1千キロも離れた太平洋上の西之島で海底噴火が起き新しい島が出現。日本列島と近海で活発な地殻活動が続いている証拠だ。
地震学は経験科学である。研究室で地震や噴火を発生させる実験はできない。実際に地震や噴火が起きて、そこからさまざまな知見を得て学問が進む。3・11以降、数々の新理論が発表された。最新の研究によって日本列島の災害予測は大きく塗り替えられているのだ。新しい年を前に、今後の地震・火山活動を予測してみよう。
千葉県北西部で有感地震が10回も
東北地方太平洋沖地震の余震は依然として活発である。太平洋の沖合に存在する日本海溝に沿って、岩手から茨城に至る南北500キロに及ぶ巨大地震の震源域近傍では、今後数年どころか、それ以上の間、ずっと余震が続くと見られる。「余震の減衰公式に当てはめると、余震の規模、発生数ともに順調に減っているが、本震があまりにも巨大だったから、余震数は桁外れに多く、まだまだ揺れ続ける」と専門家は口を揃える。緊急地震速報や津波注意報を伴う大地震が、いつ発生しても不思議ではないのだ。余震の減衰とは逆に、今後、懸念されるのは、大震災に刺激された誘発地震だ。3・11以降、地震活動が活発化したのは東北地方の内陸部である。今まで地震が少なかった秋田県内陸、秋田県沖の日本海、山形・福島県境、茨城県北部・南部などで地震が多発するようになった。
9月20日には福島県浜通りを震源にいわき市で震度5強、マグニチュード(M)5・9の強い地震が発生した。福島では浜通りはもとより中通りや会津地方でも地震が頻発しており、これらは大震災の震源域近くで発生しているから「広義」には全て余震である。しかし、地震本来のメカニズムからは余震とはいえない地震も発生している。福島付近の地震多発に加えて、ここ数カ月は、茨城県や千葉県の内陸部が震源となる地震が頻発している。11月には千葉県北西部で10回もの有感地震があった。同月16日は横浜などで震度4、同月29日未明には東京23区など広域で震度3の地震が発生した。今、最も気掛かりなことは千葉県に誘発地震が多発していることである。
大津波が怖い「アウターライズ地震」
1894(明治27)年の明治東京地震の震源は東京東部とされてきたが、千葉県北西部の地震と同じ震源だった可能性があると専門家は言う。この地震は、本所深川など東京東部で家屋の倒壊被害が出たが、実は、その29年後に来る関東大震災(1923年)の前兆地震だったのだ。
千葉県北西部から茨城県南部にかけては、東から進行してくる太平洋プレートと北上してくるフィリピン海プレートが、本州が載る北米プレートの下に潜り込んでいる。「プレートの3重会合点」と呼ばれる複雑なゾーンだが、その真上の千葉県で大震災後に地震が起こるようになり、ここに来て多発するようになった。非常に気掛かりだ。
しかも、こうした誘発地震は内陸部で起きるとは限らない。10月26日に福島県沖で発生した震度4は、専門家を心配させるものだった。規模がM7.1とやや大振りなうえ、津波注意報が出た。懸念されたのは、それが日本海溝の外縁部に起きた「アウターライズ地震」=大地震を起こした日本海溝の外側に位置する海溝外縁部(アウター)の隆起帯(ライズ)に起きる地震だったからだ。プレート境界の海溝では、大地震が発生しても外縁部は破壊されずに残り、依然として歪みの蓄積が続き、やがて大きな地震を起こすことがある。これがアウターライズ地震である。震源が沖合にあるため陸地での揺れは小さいが大きな津波を起こす。油断すると津波に呑まれる怖い地震だ。
東北地方では1896(明治29)年に明治三陸地震が大きな被害をもたらした。その37年後の1933(昭和8)年に昭和三陸地震が発生し、大津波に襲われた。昭和三陸地震は、明治三陸地震の影響を受けて起きたアウターライズ地震だったとされる。こうした知見から専門家の一部は、大震災の震源の外側に当たる日本海溝のさらに沖合で、アウターライズ地震が起きるかもしれないと懸念を募らせていた。前述の福島県沖の地震はアウターライズだったが、それほど大きな地震ではなかった。いつの日か、3・11の影響を受けた巨大なアウターライズ地震が発生し、再び大津波が福島第一原発を直撃するのだろうか。
しかも、アウターライズ地震は、東北地方の沖合とは限らないようだ。1677年に磐城、常陸、安房、上総、下総に津波被害を出した延宝地震も、房総半島沖のアウターライズ地震だったとする研究成果があり、もし、そうだとすれば、この地震が再来すると東北、関東、東海の沿岸を大津波が襲う可能性がある。
さらに、詳しく解明すべき地震がある。地震被害が少なく、津波被害が甚大だったとされる1605年の慶長地震だ。この地震は、これまで南海トラフ地震の一つとされ、南海トラフ外縁部に起きたアウターライズ地震と見られてきた。ところが、10月に開かれた地震学会で、慶長地震は伊豆諸島のはるか南、伊豆・小笠原―マリアナ海溝で発生した地震であるとの学説が発表された。震源は遥か彼方だが、関東など太平洋沿岸に大津波が押し寄せた大地震だったというのだ。
伊豆―マリアナ海溝は、太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に潜り込んでいる場所で、海溝沿いに火山島の伊豆諸島が並んでいる。11月に海底噴火が起きた西之島は、マリアナ―小笠原―伊豆諸島―伊豆半島―富士山と続く火山帯に位置し、火山も地震も同じプレート運動に起因する地殻活動である。慶長地震の再来となるアウターライズ地震が起こらないとは限らない。
異常が恒常となる「大地動乱時代」
近年、M9の巨大地震から数年内に付近で大地震が発生したケースは世界に数多く、これと併せて近くの火山も大噴火を起こしている。3・11後に、何が起きるのか。火山の噴火か、誘発地震か。何も起こらないと、高をくくるほど愚かなことはない。
東日本大震災の後、震源の周辺は地殻ストレスが集中しており、その影響から誘発地震が懸念されるのは首都圏だ。今、首都直下地震の被害想定を大幅に見直す作業が進められており14年の初めにも公表される見込みだ。東日本大震災が、従来の想定を遙かに超える巨大災害となり、予測が及ばなかった反省を踏まえて、首都直下地震の想定を見直すことになった。それによると、まず震源域が大幅に拡大された。房総半島の地震隆起跡や三浦半島の津波痕跡の最新の研究により、これまで知られていなかった地震発生が推定されるようになった。こうした地震を、従来の関東大震災(1923年)と元禄地震(1703年)の震源域に加えたため、想定震源域(掲載図を参照)が広がった。
新たな震源域に基づく想定地震規模はM8.5、想定最大震度も7になった。従来の想定地震はM7.5だったから、およそ30倍の地震が起こると想定したことになる。地震規模が30倍になれば被害が甚大になるのは当然だ。死者は、従来想定の1万1千人から12万4千人に激増し、経済被害も112兆円から280兆円~最大420兆円という、途方もない額に跳ね上がった。避難所生活者も460万人から倍増、900万人に達するという。
大震災の影響で、関東圏の地殻に膨大な歪みが蓄積され続けているのは間違いなく、万一首都圏直下地震が発生すると、日本の中枢機能が壊滅する恐れがある。避難所生活者900万人、最大420兆円という被害想定には「備えがあれば被害は減らせる」という警鐘が込められている。
この1年を振り返ると、日本各地で竜巻やゲリラ豪雨、台風、伊豆大島では激甚土砂災害など、従来想定を超える災害が相次いだ。「異常気象」「異常災害」「想定外」などという言い方は、もはや通用しない。「異常」が「恒常」となる時代なのだ。3・11の記憶が薄れても「大地動乱時代」の幕開けから3年も経っていないのだ。