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真宗大谷派が「財団資産」横取り

衆院議長ら国会議員に呼びかけ裁判闘争。全国でも稀な行政訴訟を起こした真相。

2013年7月号

東本願寺の御影堂で営まれた親鸞の750回忌法要(11年4月)

Jiji Press

5月15日午前8時、ホテルニューオータニ「おり鶴麗の間」——。日本有数の大教団である宗教法人「真宗大谷派」(京都市下京区)が催した「真宗大谷派関係国会議員同朋の会」に、錚々たる顔ぶれが集まった。真宗大谷派からは、大谷暢顯門首と代表役員である里雄康意宗務総長らが出迎えた。

同朋の会には超党派の衆参両院議員60人が加入。代表世話人に伊吹文明衆議院議長、大島理森・前自民党副総裁が就き、左藤章防衛政務官(自民党)、一川保夫・元防衛相(民主党)、鈴木克昌・元総務副大臣(生活の党)らが名を連ねる。同会は2001年に真宗門徒の国会議員が教えを聞くために結成。大谷派は地域や職場などで「真宗同朋会運動」を推進しており、その永田町版である。

ところが、この日の席上で配られた「本願寺維持財団(本願寺文化興隆財団)問題に関するお願い」と題された文書は、現在、大谷派が原告として争っている裁判への協力を求める、実に生臭いものだった。

国会議員に裁判支援要請?

設立趣意書によると、本願寺維持財団は1912(大正元)年、本願寺の布教のために設立されたが、ここ40年来、事ごとに大谷派が財団運営に口を挟んだうえ、訴訟を仕掛けている。

配布文書の一部を抜粋すると、〈12年1月10日から、一般財団法人「本願寺文化興隆財団」の認可は、裁判所の決定により、その効力が停止されております。この名称で行われている事業は裁判所の決定に反する行為です。そもそも、当該財団の所有財産は、「東本願寺の護持」のために、当該財団に託されたものです。現在、当該財団は、その財産を「東本願寺の護持」以外の目的のために使用しており、断固許すわけにはまいりません〉

そして、「全国の有権者に多数存在する真宗大谷派の門徒」がいることを強調しながら〈不正確な情報に扇動されぬよう、会員の皆様方におかれましてもご配慮くださいますようお願いします〉と結んでいる。

この文書を読んだ関係者は「500万といわれる信者の参院選協力を背景に、国会議員に呼びかけ司法と行政に圧力をかける狙いがあるのではないか。宗教団体が『三権の長』である衆議院議長を裁判に巻き込むのは非常識だ」と批判する。

大谷派が国会議員に呼びかけている訴訟とはいかなるものか。一つは大谷派が11年3月に国を相手取って訴えた行政訴訟である。財団は現在、仏教文化普及事業や国際文化交流事業、納骨堂経営など公益事業を推進しているため、公益法人改革に沿って一般財団法人への移行を申請し、内閣総理大臣の認可を受けた。ところが大谷派が、それを取り消せと訴訟を起こしたのだ。同時に移行の執行停止を求める申し立てを行い、大阪地裁は判決確定まで一時的に移行を停止する決定を下した。被告である国の関係者は「財団の活動に公益性があると判断して一般財団への移行を認めたが、財団との関連性を主張する宗教法人がその公益性を否定し、一般財団への移行を拒む訴訟を起こすとは理解しがたい。こんな行政訴訟は初めて」と呆れる。

もう一つは、これも大谷派が10年に起こした民事訴訟だ。財団が大谷家当主から寄付された京都駅前の一等地を売却して得た約200億円の返還を求め、さらに財団の定款変更(財団を解散した場合に「財産は本願寺に寄付する」と定めたものを、「類似の目的を有する公益法人または団体に寄付する」などと改正)は無効であるなどとして財団を提訴。京都地裁の一審判決が200億円の返還を認めなかったため、事実上財団側の勝訴となったが、定款の変更は無効としたため両者が控訴。今年7月19日に二審判決が出る。

大谷派は「目的外の事業や独自の宗教活動のために財団の財産を費消している。京都駅前の土地はもともと当派所有の土地であり、維持財団に信託していた土地。これを当派に何の了解もなく売り、その利益を目的外に費消している」と主張しているが、大谷派の訴訟の狙いは「財団が蓄えている土地売却益を含めた約300億円の資産を奪うこと」と、内情に詳しい関係者は解説する。もし、仮に行政訴訟で国が敗訴して移行が認められなかった場合、財団は解散に追い込まれ、今の定款上、保有資産は大谷派に帰属することになるからだ。

公益性ゆえに税制優遇措置を受けている宗教法人が、関係財団の資産を奪うため、国を相手に行政訴訟を起こしているのだから常軌を逸している。財団が保有する資産は、税制優遇を受けた公益事業から生み出されたものである。財団の活動を否定し、資産を宗教法人が横取りしようとするなんて、聞いたことがない。一審判決で京都地裁が定款変更を認めなかったことについて京都大学法学部の佐久間毅教授は、判決には誤りがあるとして「大谷派による公益法人たる本件財団(本願寺維持財団)の私物化を承認するに等しい」との意見書を提出したほどだ。

「赤く」染まった宗教法人?

二つの裁判の内情を知る大谷派関係者は「大谷派は形勢が不利なので、衆院議長の権威を利用して圧力をかけるつもりではないか」と勘繰るが、伊吹事務所は「立法府に属する議員は行政、司法に関することには一切タッチしないのが、議連である同朋の会の運営方針であるのは当然の常識」と否定する。

この裁判は、大谷派の内局(事務方)が、大谷家の大部分を宗派から追い出した「宗門内紛争」にも絡んでいる。現在、財団の理事長である大谷暢順氏は1964年から、その地位にある。1980年、宗門の長(法主)と内局の長(管長)を兼ねていた暢順氏の父、故光暢氏は、「世襲反対」を叫ぶ内局のクーデターによって、権限のない門首に追いやられた。その頃からの大谷家と内局の争いは「お東騒動」と呼ばれ、そのあおりで大谷派と財団の関係もこじれた。

今日の大谷派は宗教法人らしからぬ動きが目立つ。死刑執行の度に「死刑執行の停止、死刑廃止を求める声明」を出し、「日本国憲法『改正』反対決議」や「教育基本法『改正』に反対する宗議会決議」などを乱発し、「赤く」染まっているように見える。内局に、いつの間にか共産主義思想が入り込み、階級・奪権闘争に明け暮れているとの批判もある。

関係財団の一般財団化を阻止する行政訴訟を起こし、その資産を奪い取る。我田引水の裁判闘争を勝ち抜くため、「三権の長」を含む多くの政治家に呼びかけ、組織力を誇示する。それが親鸞の教えを守る真宗大谷派の歩む道だろうか。