「第三極結集」はマヤカシだ 新体制で自民党を変える!
石破 茂氏氏
自由民主党幹事長
2012年12月号
[インタビュー]
by インタビュアー 本誌 宮嶋巌
石破 茂氏
(いしば しげる)
自由民主党幹事長
1957年鳥取県生まれ。慶大法学部卒業後、三井銀行へ。86年全国最年少で衆院初当選(8期連続当選)。防衛庁長官、防衛相、農水相、党政調会長を歴任。9月の総裁選を経て現職。政界随一の防衛政策通である(亡父の二朗氏は建設事務次官・鳥取県知事・自治相)。 写真/平尾秀明
――内閣支持率が20%割れです。
石破 あの菅内閣の末期とほぼ同じ。国民の圧倒的多数が民主党に嫌気がさし、解散して信を問えと言っています。これほど信を失った政権が外交を行い、予算を組むことは、もはや笑止千万であり、国民の声を真摯に、謙虚に受け止めてもらいたいものです。
――一方、「第三極結集」への期待が6割にも達しています。
石破 基本政策が異なる政党が組んでも構わない? 消費税や原発政策の違いが「小異」ですか? そういうのを日本語で「野合」というのです。主要政策が違う政党がくっつくことがいかなる結果をもたらしたか、よくよく思いを致さなければ。第三極結集に脅されるような自民党であってはなりません。3年前の総選挙で民主党は、彼らの唯一の共有する目的であった「政権交代」を果たすため、できもしない政策を並べて、国民を騙した。政権交代と同様に第三極結集はマヤカシです。小党が野合した第三極が肥大化すると、政策なんかどうでもよくなります。
「橋下維新」は政策を磨くべき
――橋下市長は「政策の一致は崩さない」とも発言しています。
石破 今、橋下さんが行うべきは、日本維新の政策を純化、深化させることですね。『維新船中八策』のごとき骨組みではなく、どのような優先順位で、どんな法律を作り、具体的にどのような政策を実現するのか。その準備がなければ、国会に出てきても、すぐに倒れてしまうでしょう。
橋下さんについては様々な評価がありますが、あれだけマスコミを敵に回して、選挙に勝てるというのはたいしたものです。マスコミが望む「購読部数を増やしたい」「視聴率を上げたい」「騒ぎを大きくしたい」といったことに貢献しない限り、彼らは政治家の味方にはなりませんから(笑)。
橋下さんを評価すべきと思ったのは、そうしたマスコミの性質をわかったうえで戦略を練り、勝ち上がってきたからです。こうした巧(うま)さ、したたかさを、自民党も民主党も持ち合わせていません。マスコミ対策といっても小手先の技術は通用しないのです。どれだけ自分の言葉で語れるか、あらゆる追及に対して備える知識と論理を有しているかにかかっています。
今、日本維新に集まった候補者は「橋下人気」に縋っているだけで、必ずしも橋下さんと価値観が一致しているわけではない。彼らが当選したら、橋下さんの足を引っ張ることになる。それがわからない橋下さんではない。
――野党経験で自民党は変わったか。
石破 国民は自民党に猛省を促した。この野党でいる間とは、神様が与えた試練であり、与党時代とまったく違う状況の中で、まず自分の頭で考え、自分の筆で政策を書き、それを自分の言葉で語れる自民党に変わることだと思った。私は政調会長時代に、自民党を実力ある「政策集団」にするため、やる気と実力のある当選1回の新人議員を、環境部会長や国防部会長に起用しました。野党自民党政調の新しい「らしさ」が作れたと自負しています。その後、総選挙に向けて全自民党議員が一体となった公約作りがしたくて「一人一法案」という試みもしました。結果、何と173人の議員から565もの法案や政策が集まった。
自民党は地力をつけたが、党改革は道半ばです。今、多くの落選議員が復活を目指しています。地元をくまなく回り、支援者の声に耳を傾けてきた彼らは、なぜ、自民党が国民から嫌われたか、一番よく知っています。彼らが国政に復帰することで、党改革は加速する。私は、その先頭に立ちたい。
――法律の造詣が深いですね。
石破 大学時代にとことん勉強しましたね。専攻は民法でしたが、我妻(栄)先生の『民法総則』とか、団藤(重光)先生の『刑法綱要』とか、それこそ一冊目はボロボロになるまで読みました。一番好きだったのは刑法総論ですが、「団藤説」はピンとこなかった。異説でしたが、福田(平)先生に傾倒し、ご著書はすべて読みました。政治の本では田中美知太郎と清水幾太郎を愛読しました。父はあれこれ読めと言う人じゃなかったが、両先生の本を「読んでみろ」とくれたのを覚えています。議員になってからは、防衛安保理論では佐瀬昌盛先生に心酔。とにかく素晴らしい先生で、ご著書の『集団的自衛権』は三十数回読みましたが、まだ理解できないところがあります(笑)。
慶応では、スター教授ではなかったが新田敏先生という立派な先生がおられました。ゼミ生は毎週A4一枚のレポートを書かされます。先生は「ここは論理の飛躍がある」「この書き方は非常に説得力がある」などと、とても細かく丁寧に教えてくださる。あの2年間に鍛えられたことは、本当に後の財産になりました。僕は新田ゼミを1番で出たかったのですが、残念ながら2番でした(笑)。考え抜いた結果「これしかない」という結論を出して、ようやく口に出すという姿勢は、政治家になる前から身についていたもので、振り返ってみると、大学時代に学んだものだと思います。
選挙に強い自民党議員を作る
――経済や社会保障の指南役は?
石破 経済では伊藤元重さん、年金医療では権丈(けんじょう)善一さんの本はなるほどと読め、電話で教えを請うこともあります。農政では生源寺眞一先生のご著書はすべて読みました。私は狭く深く突き詰めるタイプだから、浅く広くは苦手です。本は自分の言葉になるまで読む。誰と議論しても負けないというところまで勉強しないと気が済まない。
――総選挙の勝敗ラインは?
石破 自民党単独過半数です。本当は数だけではなく、選挙に強い議員を作らないとダメ。選挙に弱いと追い詰められた時に、つい迎合的になったり、安易に妥協することもないとは言えないですから。