「ハゲタカの餌食」エース交易社長を解任

2012年10月号 BUSINESS

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商品・先物取引の老舗、エース交易(ジャスダック上場)で、「オリンパス事件」とそっくりの社長解任劇が起こった。解任された牧田栄次社長は「当社は資本業務提携先の米投資会社タイガートラストグループが派遣した外国人取締役に支配されています。彼らは、タイガーと当社の創業者である榊原(秀雄・前会長、現相談役)の利益を優先し、当社財産約16億円を外部流出させる契約を結ぼうとした。特別背任の疑いがあると指摘したら解任された」と訴える。

発端は4月にエースがタイガーと結んだ資本業務提携。エースは第三者割当で新株予約権を発行し、約8億円を調達し、タイガーは持ち株比率18%の筆頭株主になるという合意のもと、タイガーはジョン・フー会長以下4人の役員を派遣し、牧田氏以下の生え抜き役員は3人になった。取締役会を制したタイガーは、自らの非上場子会社2社の株式を、十分な資産査定をしないまま、総額16億円で買い取ることを要求してきた。しかも、「株式を買い取る子会社の社長は、いずれもタイガー側の外国人取締役が兼ねており、特別利害関係人に当たることは明白だったため、フー会長と押し問答になった」と関係者は語る。

するとロサンゼルスから黒幕の投資ファンド、エボリューション・キャピタル最高投資責任者であるマイケル・ラーチ氏が急遽来日。榊原氏と5月に結んだ株式譲渡契約書を暴露した。そこには、榊原氏が保有するエース株式約15%を時価の約3倍(総額約21億円)で買い取る代わりに、ラーチ氏が推薦する取締役全員を選任することなど、驚くべき条件が列挙されていた。創業者とはいえ取締役を退いた榊原氏には何ら権限がなく、甘言にだまされていたフシもある。

昭和6年生まれの榊原氏は81歳。天性の相場観でのし上がり、若くしてエースを創業。95年に業界初の株式公開を果たし、勇退するまで32年間も会長の座にあった。その榊原氏が「借金地獄」に陥ったのは10年ほど前。「株と相場で大損したらしい」(元役員)。20億円を超える借金でクビが回らなくなり、6億円の退職慰労金も露と消え、ついに保有するエース株と田園調布の自宅を担保に、エースから7億円を借りるハメになった。

榊原氏は「ラーチ氏の申し出はオーナーチェンジ。経営権がほしいのでプレミアム付きで株を買いたいという話だった。借金を帳消しにするための、やましい契約ではない」と断言する。とはいえ、高値で株を買い取る前提条件として、タイガーは過半数の取締役を派遣してきた。しかも、9月6日の取締役会付議議案には、エースがタイガーの子会社の株式引き受けに投ずる12億円が、そのままエースに還流し、榊原氏の7億円の借金が消えるスキームになっていた。この議案資料を見た監査法人は「適正意見を書けない」と、フー会長にかみついたという。

このご時世にエース株を時価の3倍で買い取る契約の怪しさは覆い隠せない。借金塗(まみ)れの老創業者の弱みにつけこみ、身銭を一銭も切らずに(新株予約権は行使されていない)経営権を奪い、違法性のある契約を押し付け、資産を抜き取る目論見だとしたら、手に負えぬ「悪漢」と言う外ない。エースには100億円を超える純資産があり、取締役会を牛耳るハゲタカを追い払うのは容易でない。

   

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