「米シティ」を跪かせた畑中金融庁長官

2011年12月号 BUSINESS

  • はてなブックマークに追加

金融庁の畑中龍太郎長官

Jiji Press

9月某日、米金融大手シティグループのビクラム・パンディット最高経営責任者(CEO)が極秘来日し、霞が関の中央合同庁舎7号館17階に金融庁の畑中龍太郎長官を密かに訪ねた。表敬訪問というにはあまりにも唐突すぎる。この米巨大銀行トップの隠密行動を知った金融関係者は「金融庁との手打ちだ」と解説する。

10月2日付の読売新聞朝刊は、金融庁が米シティの日本法人、シティバンク銀行に行政処分を下すと報じた。投資信託はじめ金融商品を販売する際のリスク説明やマネーロンダリング対策の不備が金融庁の立ち入り検査で判明したというのだ。複数の関係筋は「リスク説明の問題より、たび重なるマネロン対策の不備が引き金となり、CEOが急きょ頭を下げに来日した」と打ち明ける。

8月に人気タレントの島田紳助が暴力団幹部との交際を理由に芸能界を引退した。ほどなくして金融庁はシティバンク銀行とある欧州系大手銀行の日本拠点に非公式ヒアリングを実施した。一見無関係に見える二つの点を黒い線でつなぐと見えてくる景色がある。「紳助はシティと欧州系の2銀行に口座を開設し、資産を運用していた」と、メガバンク幹部は言う。紳助の資産は40億円を超えるとされ、運用資産の中には、背後に控えるヤクザマネーが混入していた疑いも囁かれている。もし、事実なら完全なマネロンだ。

先のメガバンク幹部は「紳助が持ち込んだ大金の素性に気づいた件(くだん)の欧州系銀行は慎重に距離を取った」という。一方、シティバンク銀行は、何事もなかったかのように取引を続けていたようだ。

シティバンク銀は04年と09年の2回、マネロン対策の不備で日本の当局から行政処分を受けている。3度目となれば業務停止命令どころか免許剥奪ものだ。折しも7月に、米国では国際的犯罪組織(TCO)の根絶を目指す大統領令にオバマ大統領が署名した。この文書には多国籍マフィアと並び日本のヤクザが叩き潰すべきTCOと名指しされている。 縁日に並ぶ「テキ屋」に見られるように裏社会との共存を続けてきた日本と異なり、欧米は反社会的勢力との関係に極めてナーバスだ。しかも、大統領令発効から間もない時期に「ヤクザマネー」洗浄への加担が発覚したら、シティは米国社会から退場宣告を受けかねない。

さらに、ナイジェリア人の犯罪グループによってエチオピア中央銀行から2700万ドル余り(当時のレートで約28億円)が不正に引き出され、世界7カ国に送金された08年のマネロン事件でも、米シティバンクの口座と決済ネットワークが使われたことが判明しており、とかくうしろ暗い銀行なのだ。

仮に、紳助がらみでヤクザマネーのロンダリングが発覚し、FBIが捜査に乗り出すことにでもなれば回復不能のダメージを受ける。金融庁とシティは絶対に認めないだろうが、日本発のマネロン疑惑にフタをするため、CEO自ら緊急来日し、「畑中長官に頭を下げ、穏便な行政処分を懇願したのではないか」、とメガバンク幹部は勘繰っている。

シティの消えない「マネロン疑惑」は、畑中長官とパンディットCEOの間で「ディール」が成立し、表沙汰にならない可能性が高い。ちなみに、シティ日本法人の副会長は元金融庁審議官である。シティ側からすれば天下りを受け入れていた甲斐があったということか。当局にとって不満の残る結末とはいえ、欧州債務危機が世界を揺るがしている時に、シティに引導を渡して国際金融の混乱に輪をかける度胸はなかったのだろう。これまで米国政府の威光を笠に日本でやりたい放題を続けていた米銀大手を跪かせたことで溜飲を下げ、矛を収めるつもりかもしれない。しかし、決して忘れてはならないことがある。法令順守も企業統治もお粗末なシティの体質が温存され、将来再び不祥事が発生した場合は、金融庁も「共犯」として断罪されることになるだろう。

   

  • はてなブックマークに追加