習近平は「覇権を求めず」今こそ「選挙制度改革」を

山口 那津男 氏
公明党代表

2011年2月号 POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋

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山口 那津男

山口 那津男(やまぐち なつお)

公明党代表

1952年茨城県生まれ(58歳)。水戸一高、東大法学部卒。弁護士。90年衆院初当選(当選2回)。細川内閣で防衛政務次官を経験。2001年参院初当選(東京都選挙区)、07年再選。党政務調査会長を経て09年9月より現職。自民党の谷垣禎一総裁とは司法修習同期。座右の銘は「至誠一貫」。

写真/平尾秀明

――年末に北京で、次のトップリーダーと目される習近平副主席と会談しましたね。

山口 お目にかかるのは07年、09年と合わせて3度目です。中国政府が、一昨年と同じ日のぴったり同じ時刻(12月15日午後4時)に会談をセットしたのには驚きました。冒頭、習さんは「1年前と同じ日時とはご縁が深いですね。これも国交回復前から創価学会の池田大作氏が日中友好の道を拓いてくれたお蔭です」と話され、私からは父上の※故・習仲勲氏が、1982年に公明党青年訪中団を受け入れてくださったことなどを話題にしました。

「バンザイ突撃」みたいな予算編成

――習さんとは、どんな人物ですか。

山口 とにかく大人風(たいじんふう)で落ち着いていますね。とても温厚な印象を受けます。言葉は理路整然としており、大局に立った話をします。

なるほどと思ったのは、世界の先進国の人口は合わせて13億人余り、中国は一国で13億人。もし、世界の先進国が成し遂げた経済発展モデルを、中国がそのまま追いかけたら、エネルギーも資源も環境も破壊的なことになる。だから中国は発展モデルを修正し、国内では調和のとれた科学的発展を目指す。その一つの鍵が、環境面での日中協力だと言うのです。とかく中国は資源を呑み込む、拡張主義だと警戒されますが、世界と協調しなければ発展できないことは、我々もわかっていますよ、というメッセージなんでしょうね。

さらに、「北東アジアの安全安定、東アジア共同体の発展について日中が協力すべき課題が多い」と述べた後で、「中国が強くなっていったとしても覇権を求めることは、将来ともしない」と明言しました。「覇権を求めず」というのは、従来から中国の基本方針ですが、習さんが昨年10月に中央軍事委員会副主席に就任し、「尖閣問題」がこじれた直後の発言だけに、その意味は重いと思います。

最後に、習さんの奥方、人民解放軍の有名歌手である彭麗媛さんが、24年前に民(※※)音の招きで、日本各地を公演した時の写真やパンフレットをプレゼントしたら、「よい土産になる」と相好を崩していましたね。

――迷走を重ねる民主党政権への不安と不信が極限に近づいています。

山口 昨年末は、政府・与党にとって最も重要な予算編成と税制改正をそっちのけにして、小沢氏の国会招致問題を巡る党内抗争に明け暮れる始末。来年度予算案は、2年連続で借金が税収を上回る異常事態です。

――なぜ、こんなことになったのですか。

山口 鳩山政権と同様に「マニフェスト」に縛られ、それが完全に崩壊したのです。民主党は子ども手当や高速道路の無料化などバラマキ型の公約を並べ立て、財源は国の総予算の組み替えなどで確保できると豪語していました。その主張どおりであれば11年度は事業仕分けなどで12兆6千億円もの財源を確保できるはずが、実際に出てきたのはわずか3.6兆円でした。財源を無視したバラマキ公約の破綻は明らかなのに、民主党は選挙を優先した「ご都合主義」に終始しており、将来世代に莫大なツケを回す予算案を、2年連続で作ってしまった。そして、年が明けると、こんな「バンザイ突撃」みたいな予算編成はもうできないからと、消費税増税による国民負担を求めると言い出したのです。マニフェストを修正、放棄せずに、消費税論議を先行させるやり方は議論の順序が逆で、国民に対する裏切りですよ。そもそも民主党に政権を担う能力と責任感はあるのか疑問です。

――「闘う野党」を強調していますね。

山口 公明党が地方議会に初進出した昭和30年の当選者は53人。56年目を迎えた今、地方議員は3千人を数えます。地域に根を張る現場第一の地方議員のネットワークこそが、我が党の強みです。統一地方選は、地域住民の声を吸い上げ、それを地方行政に反映させ、国の政策にも繋げてきた公明党が「地域から日本を変える」力を強めるチャンスなのです。

――現在、地方選で62カ月連続「全員当選」ですが、4月の統一地方選の情勢は?

山口 12年ぶりに野党として闘う統一選になりますが、地方議会で中心的な役割を果たしている自民党の復調が目立ち、みんなの党や地域政党といった新勢力の挑戦もある。前回に比べて、首都圏の県議会や政令市議会などで厳しい選挙区が増えています。

――参院選後の「ねじれ国会」で、公明党は衆参両院でキャスチングボートを握りました。民主党との連立による政権復帰の可能性は?

山口 公明党の全国各地での闘いを見ずに、国会だけを見て、民主党と組むのか、自民党に味方するのかと言われるのは心外です。国民の間には「この国は一体、どうなるのか」という不安が広がっています。国民のために何ができるかという視点に立って、通常国会で徹底的な論戦を挑みます。

「選挙制度改革」に党利党略なし

――日本の政治が劣化し、機能不全に陥った原因をどのように分析しますか。

山口 現在の衆院選挙制度(小選挙区比例代表並立制)を94年に導入したのが間違いでした。当時から私は大反対でした。もともと英国のような土壌がなかった日本で2大政党制を人工的に作るために小選挙区制にしたのです。その結果、日本の政治がよくなったかといえば逆ですね。諸悪の根源といわれた中選挙区が小選挙区に替わっても政治とカネの問題はなくならず、スピーディーな意思決定も実現しませんでした。2大政党制は最多の有権者の心を掴むので政策は互いに似てくるのに、小選挙区で勝つためにいたずらに対立点を煽ることになる。経験豊富な英国ですら選挙至上主義に陥り、その見直しに動いています。そもそも私には、狭い国土に人々がひしめき合い、資源もなく、少子高齢化という社会変化に直面している日本で、二元論的な対立軸が必要とは思えません。現行の選挙制度は価値観が多様化した現在の社会状況に合わず、議会内の多数派と国民の民意との間に大きなズレが生じていると思います。

――最高裁が違憲判決を下した参院で選挙制度改革の議論が始まっていますね。

山口 我々は衆参ともに新たな選挙制度を導入する中で定数削減を行い、衆院については「新しい中選挙区制」を提案しています。多くの人々が政治の機能不全に底知れぬ不安と閉塞感を抱いています。2大政党制に民意を無理やり押し込めるのではなく、多様な民意を反映できる制度をどう作るか。今こそ選挙制度のあり方を根本から議論すべきです。

――少数政党は選挙制度改革に弱い。この問題を軸に政権与党と連立する可能性は?

山口 いや、選挙制度について党利党略はなしです。両院の議長のもとに各党代表が集まり、公平な議論を行うための協議機関を作るべきです。

   

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