「EIEの残党」の闇に切り込む捜査当局

2010年1月号 BUSINESS

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大阪府警捜査2課と証券取引等監視委員会が仕手筋の一掃に向けた大捕物を展開している。

入り口となったのは東証2部上場のユニオンホールディングス株をめぐる相場操縦。同社の横濱豊行前社長ら9人を逮捕、うち3人を起訴に持ち込んだ。さらに捜査の過程で偽名口座の開設を突き止め、ゴルフ場経営会社「ワシントン」の河野博晶オーナーら3人を逮捕するに至っている。横濱前社長については別の架空増資容疑でも再逮捕。当局による追及の手は緩まる気配がない。

横濱前社長、河野オーナーの2人は、ここ数年、株式市場を跋扈してきた「現代の仕手筋」の代表格といえる。相場を張るだけの旧来型仕手筋と異なり、上場企業そのものに食い込み、第三者割当増資など新株発行を悪用して暴利を貪ろうとするのが、彼らに共通する手口である。

横濱前社長は仕手筋「草月グループ」の後継者としても知られる御仁。もともと同グループは故高橋治則氏が築き上げたもの。バブル期に「EIEグループ」を率いた高橋氏は一時期、個人破産するほどのどん底状態にあったが、2000年頃から仕手筋として復活。東京・赤坂の草月会館を根城に、ユニオンホールディングスなど複数の上場企業を背後から支配した。

だが、05年7月に高橋氏は急死。そこで権力掌握に動いたのが側近格の横濱前社長だった。高橋氏の長男や、EIE時代からの長老格を追放。この時、横濱前社長が味方につけたのが、2信組乱脈融資事件で高橋氏とともに罪に問われ、有罪判決確定後も収監を拒み続けた山口敏夫・元労働大臣だった。「“珍念”(山口元大臣の別称)の野郎は勝手に会議に来るようになった」と追放された長老格は恨み交じりに話す。

一方の河野オーナーも2信組乱脈融資事件で執行猶予判決を受けるなど、EIE人脈の一人。ただ、草月グループとは距離を置き、自らの手で「ワシントングループ」を率いた。過去には三井埠頭の手形乱発や、クレイフィッシュの創業者名義株の紛失トラブルで陰の金主として登場。その後、A.Cホールディングスやテークスグループといった上場企業を支配下に置いた。河野オーナーは豊富な政界人脈を持つことでも知られる。小林興起・民主党衆議院議員の実弟・壮貴氏はつい最近までA.Cホールディングスの社長だったし、秋元司・自民党参議院議員も小林議員の秘書を務めたワシントンの取締役に名を連ねた時期がある。

株式市場の裏側に巣くう仕手筋のネットワークは有機的に離合集散を繰り返す。実は、横濱前社長と河野オーナーが共同戦線を張ったと思われる事案がある。

「ユニオンホールディングス株を上げてもらうかわりに横濱前社長がバナーズ株を上げる。そんなバーター取引が07年にあったはず」

株式ブローカーの一人は舞台裏についてそう証言する。

07年4月に東西の仕手仲間に依頼してユニオンホールディングスの株価つり上げを図ったというのが横濱前社長の被疑事実。証言によれば、その後に東証2部上場のバナーズ株でも株価が操作され、河野オーナーも関係していたという。バナーズは07年後半に立て続けに増資を行ったが、そこでは暴力団に近いとされる在日韓国人の金融業者も暗躍。増資後は仕手筋同士が分裂し、09年3月には恐喝トラブルまで表面化している。

実は、今回の内偵捜査が進んでいた10月初めに、ユニオンホールディングスがJR新横浜駅近くに所有する倉庫の2階で首つり自殺があった。自ら命を絶ったのは、かつて高橋氏の側近だった川崎市に住む52歳の男性。国内外のダミー会社を管理するなど、「高橋金脈」について多くの秘密を握っていた人物だ。翌日には証券監視委による参考人聴取も予定されていた。遺書が残されていないため動機は不明だが、元側近はヤミ金から多額の借金を負い、追い込みをかけられていたという。高橋氏の「遺産」をめぐり横濱前社長とは対立する関係にもあった。前出の長老格は「今回の事件捜査とは直接の関係はないだろう」と話すが、仕手筋の世界における闇の深さを物語る。かつてない意欲を見せる捜査当局は、その闇に切り込めるだろうか。

   

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