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「トヨタは消滅前夜」と警鐘鳴らす章男社長

2009年11月号

「企業が凋落していく過程は5段階ありますが、トヨタは今、その4段階目にきていると思います……」

トヨタ自動車の豊田章男社長(53)は10月2日、日本記者クラブで行った講演の冒頭でこう語った。

「企業凋落5段階説」は、米国の経営学者で、名著『ビジョナリーカンパニー』の著者でもある、ジェームズ・C・コリンズ氏が説いている。第1段階は「成功体験から生まれた自信過剰」、第2段階は「規律なき規模の追求」、第3段階で「リスクと危うさの否定」へと病状が進み、第4段階では「救世主にすがり」、第5段階で「企業の存在価値の消滅」となる。

なるほど「5段階説」は、最近のトヨタと重なる。リーマン・ショック以前のトヨタは利益が優に2兆円を超え、生産が追いつかぬほどの活況を呈していた。米国一辺倒の規模拡大に走り、利益率の高い大型車、贅沢車に傾注し、トヨタ本来の強みだった「良品廉価」の追求が疎かになった。空前の業績に胡坐をかいた「身の丈を超えた経営」に陥ったのだ。章男氏は「崖っぷちでクラクション」を鳴らしてみせたのだ。さらに「『第4段階』からでも復活はできます。その鍵を握るのが人材(社員)です。救世主は私ではありません」と付け加えることも忘れなかった。

社長就任以来、章男氏の言動は「オレがトヨタを変えてやる」といった意気込みに溢れるものばかりだった。社長就任の会見で「豊田家はトヨタの旗印か」と問われ、「現場に一番近い社長でいたい」と即答した。創業家の御曹司として企業統治のシンボル、いわゆる「お飾り」社長になるつもりなどさらさらない。荒海を航行する「トヨタ丸」の艦長として死力を尽くす使命感が傍目にもひしひしと伝わってきた。

章男氏の登場でグループ統治の力学も変わった。オールトヨタの求心力を象徴するトヨタ本社と主要関連企業15社の懇談会が毎月、名古屋駅前に聳えるミッドランドスクエア16階の「豊田クラブ」で開かれてきた。章男氏の社長就任前は、グループ総帥の豊田章一郎氏が主宰する会長、社長の親睦的な集まりだったが、それが様変わりした。若い章男氏を中心に現場で汗をかく15社の社長がグループの再生を議論する場になったのだ。それとは別に張富士夫氏が主宰する会長会が設けられ、社長会をサポートする位置づけになった。世代交代が加速しているのだ。

章男氏が目指すトヨタ再生は「商品改革」の徹底に尽きる。要は「良品廉価」という原点に返ることである。章男氏の発言は「商品」という切り口で考えるとわかりやすい。カーレースに自ら出場するのも、トヨタ車の性能、限界を見極めるためだ。社長就任後も北海道鹿追町など全国に33カ所ある、体験型ドライブゾーン「ガズームラ」をよく訪れている。先の講演でも「若者の車離れと言われるが、離れているのは我々の方」と言い切った。今のトヨタはメーカーの自己満足でお客様に車を押しつけている、という危機感がある。

最近、章男氏は10月19日にモデルチェンジする「マークⅩ」のラインアップに立腹したという。現在、「マークⅩ」には排気量2.5リットルと3リットルの2種類があり、低燃費志向から販売の9割近くが2.5リットルなのに、新型モデルでは3リットルタイプを大型化した3.5リットル車の発売を決めた。こうした姿勢が、章男氏にはエンジニアの自己満足、いや慢心に映る。章男氏は早速、技術部門に「社長室」の出城を設け、「足繁く通って目を光らせるようになった」(技術部門の幹部)。

トヨタは今期、2期連続の巨額赤字の見通し。円高でさらに赤字が膨らむ恐れもある。米国経済の回復が遅れれば、来期も赤字になりかねない。トヨタといえども3期連続の赤字は非常事態だ。章男氏が救世主たらんと全力を尽くしていることは誰もが認めるところだ。しかし、功を焦るべきではない。章一郎氏の衣鉢を継ぐ章男氏は、おそらくこの先20年以上もグループ総帥の地位を占めることになる。磨くべきは大局観と、人心を集め活かす術である。

「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し。急ぐべからず。……己を責めて人を責めるな。及ばざるは過ぎたるより勝れり」

三河が生んだ大英傑の名言を知らぬわけではあるまい。