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アイフルに襲いかかる「ハイエナ」

ムーディーズの格付けが最低レベルの痛打。福田オーナーの支援がなければ立ち行かない?

2009年4月号

2月23日、商工ローン最大手のSFCG(旧商工ファンド)が東京地裁に民事再生を申し立てて受理された。負債総額は3380億円。今年最大の破綻だ。SFCG創業者である大島健伸会長は、民事再生法の適用申請に至った経緯について「3年前の貸金業法改正でいわゆる過払い金の請求が大幅に増加。それに伴い多額の引当金を積む必要に迫られたうえ、金融危機によって新たな資金調達が不可能になった」と述べた。

直接の原因は資金繰りに違いない。昨年3月にはドイツ銀行等に新株予約権付社債を400億円発行するなどの手当てをしたが、金融危機のさなか万策尽きたのだ。しかし、破綻に追い込まれた真因は過払い請求だろう。SFCGのような商工ローン・不動産担保ローンを主力商品とするノンバンクは、消費者金融と違って顧客1人当たりの貸付単価が高い。消費者金融なら大手業者でも顧客単価は50万円前後だが、商工ローンの場合顧客一人に1千万円を超す融資も珍しくない。しかも、金利は消費者ローン並みの高水準だ。このため、ひとたび過払いとなると500万円以上の請求が来る。

ディックも底知れぬ苦境

債務整理の現場では、クレサラ弁護士に過払いのある債務者を紹介して手数料を稼ぐ業者を「紹介屋」と呼ぶ。彼らは退職した社員等から入手した顧客リストをもとに債務者を訪ね、その場で過払い金を計算して弁護士に繋ぐ。過払いで戻ってくる金額が大きいため、弁護士が「紹介屋」を使っても十分にペイするのだ。なかには商工ローンを専門に狙い、10人以上の弁護士を顧客に持つ猛者もいるそうだ。このところ中小の商工ローン業者の淘汰が進んだため、最大手のSFCGが標的になっていた。紹介屋というハイエナの群れに食い尽くされたSFCGの無念はいかばかりだろうか。

一方、大手消費者金融にも異変が起こっている。2月13日、武富士が第3四半期の業績を発表した。過払い引当金を2144億円積み増したことにより2143億円の当期純損失が発生。その結果、純資産は2048億円、過払い引当金総額は4683億円になった。ピーク時は60%を超えていた自己資本比率も度重なる過払い引当金により17.8%に下がっている。記者会見で武井健晃副社長は「利息返還損失引当金の大幅な積み増しを含めた今回の施策は、(中略)確固たる経営基盤にするための将来を見据えた施策」と述べ、「膿はすべて出したので財務基盤は磐石である」とアピールした。

しかし、本誌2月号が報じたように、過払いの時効に関する最高裁の新判断により過払い請求が20~30年前に遡る可能性が高まった。武富士が第3四半期に、その手当てを済ませたとは思えない。3月3日、注目すべき判決が出た。最高裁はリボルビング契約の場合、時効の起算点は取引終了時という債務者に有利な判決を出し、プロミスに27年前に遡る過払い金の支払いを命じた(この結果、過払い金は370万円から630万円に跳ね上がった)。つまり武富士は3月期末に、監査法人からさらなる過払い引当金の積み増しを迫られる可能性があるのだ。

もっと深刻なのはアイフルである。第3四半期業績は武富士と対照的に単体で58億円の経常利益を計上したが、過払い引当金、貸倒引当金を取り崩してやっと黒字にしたというのが実態のようだ。厳しいのは、単体ベースの営業貸付金が武富士とほぼ同水準(武富士9959億円、アイフル9173億円)にもかかわらず、過払い引当金は1547億円にとどまり、武富士より3千億円以上少ない点だ。自己資本は3287億円だから、もし武富士並みに引当金を積めば債務超過に陥ってしまう。

SFCGを結果的に葬ることになった弁護士と紹介屋は、SFCGという太い金蔓を失った。ある弁護士事務所は10億円を超える過払い金を取りっぱぐれてしまったと嘆く。しかし、彼らはしたたか。すでに次のターゲットに狙いを定めている。それは不動産担保ローンに参入し消費者ローンでも大口融資をしている消費者金融会社を指す。消費者ローン市場の飽和を受けて、数年前に不動産担保ローン、商工ローンに進出したアイフルは格好の獲物だ。これらの有担保ローンの融資残高は1900億円にのぼる。傘下にはシティズという商工ローン専門会社もある。

大銀行を攻めるクレサラ協

3月5日、米格付け会社のムーディーズはアイフルの格付けを投資適格としては最低のBaa3に引き下げ、「引き続き引き下げの方向で見直す」と発表した。昨年2月、アイフルの第三者割当増資500億円を創業者である福田吉孝社長が全額引き受けたが、「今期末を乗り切るには福田オーナーの支援が必要」と、住友信託銀行関係者は漏らす。

アイフルと並んで狙われそうなのは米銀シティグループ傘下のディックファイナンス。1兆円弱という大手並みの融資残高を持ち、過去にアイクというブランドで不動産担保ローンを積極的に展開していた。ディックファイナンスは、最近まで40%という金利で500万円を超えるローンを主力商品としていたため、過払い金も莫大になる。シティグループは日本における消費者金融事業からの撤退を表明しているが、ディックを売却したくとも買い手が現れず、底知れぬ苦境に陥っている。

今年1月、弁護士や司法書士らでつくる「全国クレジット・サラ金問題対策協議会」は、三菱東京UFJ銀行(アコムの親会社)、三井住友銀行(プロミスの筆頭株主)、新生銀行(レイクの親会社)に対して抗議声明を発表した。傘下の消費者金融に過払いの自主返還を指導するよう要求し、これに応じなければ過払い金返還訴訟の被告に銀行を加えることを検討すると、半ば恫喝したのだ。

商工ローンと不動産担保ローンの過払いを食い尽くしたハイエナ弁護士の触手は大手消費者金融に伸びる。もし、銀行傘下の消費者金融が債務超過に陥り破綻すれば、その矛先は大銀行のディープなポケットに向かうことだろう。カネのあるところから毟り取ろうとするのが、ハイエナのごときクレサラ弁護士・司法書士の性根だ。逃げるサラ金、食らいつくクレサラ。一部の政治家と金融庁、裁判所が結託した「ノンバンク殲滅作戦」のゴールが近づいている。それにしても、さまざまな社会的歪みをもたらした一連の最高裁判決は罪深い。契約で収受した利息を後の法解釈で無効とし、20~30年も遡って業者に過払い金を返還させるのは、世の常識から逸脱している。それが、弱者保護vs悪徳サラ金という情緒的な図式で正当化されてしまった。業者にしてみれば国家から詐欺に遭ったようなものだろう。このことはサラ金の不利益にとどまらず信販、カード会社、銀行にも波及し、貸し渋りと闇金の跋扈、不良債権の増大と金融不安を引き起こす。

おまけに弁護士・司法書士のモラルダウンと信用喪失をももたらした。巷では「クレサラ弁護士の稼ぎ頭」と評される人物が著した『サルでもできる弁護士業』(幻冬舎)なる本が売れている。著者の西田研志弁護士はホームロイヤーズという債務整理を専門とした法律事務所の親玉で、年間100億円の売り上げがあるという。同書で氏は、弁護士は正義の味方ではなく、弱者保護はうわべだけ、己の私利私欲のために仕事をしているなどと暴露している。結局、過払いで泡銭を手にしたのは誰か。答えは明らかではないか。