登録内容の変更新規オンライン会員登録会員サービスについて

憧れのセレブホテルが「死屍累々」

遂に70%を超える割引宿泊料金まで登場。客足の途絶えた超高級ホテルの運命は?

2009年2月号

「お年玉!! パークビュールーム 33㎡ ¥11000 72%OFF 」

「ガーデンタワー スタンダードルーム27.3㎡ ¥17000 59%OFF」

価格比較サイト運営会社カカクコムが手がける高級ホテル予約サイト「yoyaQ.com(ヨヤキュードットコム)」を開くと、「憧れの高級ホテルに割引料金で泊まれます」との謳い文句が目に飛び込んでくる。

1月7日午後、「東京都内」「当日宿泊」「2名1室」の条件で空室検索をすると、「おすすめ! 宿泊プラン」として画面に出てきたのが冒頭の2件。初めがホテル日航東京(台場)、2番目はホテルニューオータニ(紀尾井町)のもの。「72%」「59%」――。凄まじい割引率が都内高級ホテルの苦悩を物語っている。

ディスカウントに走っているのは国内勢ばかりではない。これまで強気の価格設定をしてきた外資勢も追随している。同日同条件では、ウェスティンホテル東京(恵比寿)が「デラックスダブル42㎡ ¥30000 58%OFF」、フォーシーズンズホテル椿山荘東京(目白)も「スーペリアルームキング45㎡ ¥35000 44%OFF」といった具合だ。

リーマン・ショックが直撃

本誌編集部が独自入手した「東京都内主要ホテルの収益力ランキング」をご覧いただきたい。データは昨年11月の実績。客室稼働率は25のホテルのうち、21ホテルで前年同月より低下。このうち11ホテルが2桁のマイナスになっている。

順位は「Revenue Per Available Room(略称Rev PAR)」ではじき出している。Rev PARは客室単価(円)に客室稼働率(%)を乗じたもので1室当たりの収益力を表す。トップはリッツカールトン東京(六本木)でRev PARは4万1千円。前年同月より6300円(13%)下落したものの、2位のグランドハイアット東京(同)を8900円も引き離し、唯一4万円台を維持している。表には掲載していないが、リッツカールトンの客室単価は5万3400円で、パークハイアット東京(新宿)の5万6100円、マンダリン・オリエンタル東京(日本橋)の5万5300円を下回っている。それでも稼働率が76・7%と、下落幅を4・5ポイントに抑えたことで断トツの首位に立った。

07年11月時点では、リッツのほか、マンダリン、パークハイアット、グランドハイアットの合計4ホテルがRev PARを4万円台に乗せていた。客層の中心はいずれも欧米のビジネス・エグゼクティブ。なかでも金融関係者が多かった。08年は、サブプライムローン問題に端を発した世界的な金融危機が深刻さを増し、これらのエグゼクティブの来日が減少。「9月の『リーマン・ショック』以降は客足がパッタリ途絶えた」と外資系ホテル幹部は言う。

08年11月のランキングに話を戻すと、3位のマンダリン、4位のパークハイアットはともに稼働率を20ポイント以上、Rev PARを1万円以上、それぞれ下げている。07年9月に開業したペニンシュラ東京は、オープン直前のインタビューでマルコム・トンプソン総支配人が「客室単価6万1千~6万2千円を目指す」と発言していたが、現状の客室単価は4万7400円、Rev PARは3万円にも達していない。ペニンシュラも「価格を下げるプランも検討している」と報じられており、稼働率が50~60%台に低迷しているパークハイアットやウェスティンなどを中心に、外資系ホテルの価格戦略見直しに関心が集まっている。

「外資系の価格改定が本格化してくると、そのしわ寄せは中下位の国内勢に行く」と前出の有力ホテル幹部は予測する。とりわけ深刻なダメージを受けそうなのが客室数の多い巨艦ホテル。ニューオータニをはじめ、グランドプリンスホテル赤坂、プリンスパークタワー東京(芝)を擁するプリンスホテル系、さらに今回のランキングでは27位となり、表には掲載されていない京王プラザホテル(新宿)などである。

プリンスやオータニは赤字

巨艦ホテルのRev PARを見ると、まずプリンス系はグランドプリンス赤坂が1万5600円、プリンスパークタワーが1万4500円。系列では「最高級」とされるプリンスパークタワーのRev PARが、1泊1万4300円の「カップルプラン」などなりふり構わぬ集客対策を打ち出しているグランドプリンス赤坂のそれを下回るという逆転現象が起きている。最近ではプリンスパークタワーも1泊1万8千円の「リミテッド・バーゲン」などの商品を出し、ディスカウント路線に傾斜。「最高級」の看板が泣いている。

昨年12月19日にプリンスホテルはアイスホッケー「アジア・リーグ」の名門チーム「西武」の廃部を発表。記者会見で渡辺幸弘社長は「経営環境が厳しくチーム継続は難しい」と説明した。実はプリンスホテルはこれに先だって、従来子会社だった球団「西武ライオンズ」を西武鉄道に譲渡することを決め、11月21日のオーナー会議で承認を受けている。「ライオンズの譲渡もアイスホッケーの廃部もプリンスホテルの赤字減らしが狙い」(西武グループ関係者)という。プリンスホテルの08年3月期決算は営業損益▲32億円、経常損益▲100億円のいずれも赤字。09年3月期は「何が何でも黒字転換を」と経営陣はハッパをかけているようだが、パークタワーやグランドプリンス赤坂など主力ホテルの収益状況を見る限り、V字回復は難しそうだ。

一方、ニューオータニのRev PARは1万4500円、ランキング27位の京王プラザは1万4300円(前年同月比1500円減)で苦境にある。オータニは、東京や大阪のホテルの経営母体であるニューオータニ(本社・東京都千代田区)の08年9月中間決算が純損益で▲9億8500万円の赤字。前年同期も4億3千万円の赤字だったが、その額が倍以上になっている。ホテルの収益改善が見込めなければ、隣接するオフィスビル「ガーデンコート」(地上30階建て)の売却など保有不動産の処分を迫られる可能性もあり、メーンバンクのみずほコーポレート銀行の出方が注目される。

つい1年ほど前まで、業界では「東京には圧倒的に世界ブランドの高級ホテルが少ない」といわれ、今年3月にオープンするシャングリ・ラホテル東京(丸の内)を含め、開業ラッシュはまだまだ続くと喧伝されていた。だが、状況は一転。市場は急速に縮小し、08年1~11月累計でトップクラスの外資系ホテルの多くが宿泊部門の収入を前年同期より20~30%も落としている。この先は新設計画の見直しだけでなく、既存ホテルの淘汰が進むとの悲観論さえ出てきた。高級ホテル市場が「死屍累々」と化す日が来るかもしれない。