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テレビ局が牛耳る「音楽出版」利権

テレビ番組の主題歌はすべて利権で決まっている。音楽出版社なる著作権管理ビジネスの裏側。

2009年1月号

超人気音楽プロデューサーの小室哲哉が、自分が譲渡できない曲を含む806曲の著作権を個人投資家に譲渡すると持ちかけ、5億円を詐取したとして逮捕された。

小室は自作の806曲の著作権のほとんどを音楽出版社に譲渡し、自身では著作権を所有していないにもかかわらず、著作権を持っていると言って投資家を騙した。音楽著作権制度の複雑さを悪用した犯行だった。

小室が時代の寵児になったのはテレビの力が大きい。安室奈美恵やTRFらが歌った小室のダンスミュージックはもともとテレビ向きだったが、加えてエイベックスが巨額の資金でテレビの番組枠を買い取り小室の曲を大宣伝。メガヒットを連発した小室はカリスマ音楽プロデューサーの地位を確立したのだ。

「小室の恋人だった華原朋美との交際がマスコミに報じられた後、テレビなどマスコミに大きな影響力を持つ大手芸能プロのバーニングが小室のマスコミ対応やプロモーションを担当するようになったことも大きい」(芸能プロダクション関係者)

小室の曲の著作権が音楽出版社のエイベックス・グループ・ホールディングスやバーニングパブリッシャーズに相当数譲渡されているのは、こうした経緯があったからだ。

テレビ局系出版社が荒稼ぎ

音楽著作権には他人に譲渡できない著作者人格権と、お金を産む財産権があり、財産権としての著作権は音楽出版社などに譲渡できる。

いわゆる音楽出版社は16世紀のヨーロッパが発祥の地。音楽出版社は作曲家から楽譜を預かり使用料を取って貴族などに貸し出すほか、楽譜の出版もしていた。こうした経緯から音楽業界では著作権は出版権とも呼ばれている。

一方、小室のような楽曲の作曲家・作詞者を著作者と呼ぶが、著作者が自ら楽曲のプロモートや著作権を管理するのは大変な作業。そこで音楽出版社に著作権を譲り渡し、音楽出版社はその見返りに曲のプロモートや著作権管理を行っている。

音楽出版社はJASRAC(日本音楽著作権協会)などに著作権を信託し、JASRACなどがカラオケなどの使用料を徴収し、音楽出版社に渡す。音楽出版社はレコード会社やJASRACなどから受け取った著作権使用料を著作者との契約に基づき著作権印税として著作者に分配する仕組みだ。

このように音楽出版社の業務は一見地味だが、実は音楽出版社は著作権者として楽曲の録音権、演奏権、譲渡権などさまざまな権利を有し、絶大な力を持っている。

著作権者である音楽出版社は楽曲が演奏されたり、カラオケ、貸しレコード、着うたなど多様な形で著作権使用料を受け取ることができる。メリットが極めて大きいので放送局、映画会社、芸能プロ、広告代理店、レコード会社などが音楽出版社を設立している。現在、社団法人音楽出版社協会加盟の音楽出版社は270社もある。

「儲かるから、一つの曲に複数の音楽出版社が著作権者になることも珍しくない。この場合は音楽出版社の一社が代表出版社というものになりJASRACと作家の窓口となります。これを株主にたとえると、代表出版社は過半数の株を握る大株主で、代表出版社になれば何でも決められるし、逆に代表出版社の許可なしにはアーチストらは、ほとんど何もできないのが実情です。ここ10年ほどはテレビとのタイアップが全盛ということから、テレビ局系の音楽出版社が代表出版社になることが多く、儲けの多くをテレビ局系が持っていき、音楽関係者の不満が募っています」(レコード会社元幹部)

テレビ局系の主な音楽出版社としてはフジパシフィック音楽出版(フジテレビ系)、日本テレビ音楽(日テレ系)、日音(TBS系)、テレビ朝日ミュージック(テレ朝系)、テレビ東京ミュージック(テレ東系)、日本放送出版協会(NHK系)などがあるが、テレビ広告が減少する中、テレビ局にとって音楽出版社が生み出す利益は重要なものになっている。たとえばフジテレビの100%子会社であるフジパシフィック音楽出版は、フジテレビの人気番組「クイズ!ヘキサゴンⅡ」で大ブレイクした超人気ユニット「羞恥心」の楽曲の著作権を所有して利益をかさ上げしている。

グループ名と同じ「羞恥心」という曲は2008年、オリコンシングルでミリオンセラーとなり、着うたダウンロード数も配信開始3週間で11万件という過去最高を記録した。

これによりフジ・メディア・ホールディングス(フジサンケイグループ事業統括持ち株会社)傘下のレコード会社、ポニーキャニオン関連を含む同ホールディングスの音楽事業の売り上げは、07年9月期より12億円以上増加。同ホールディングスの決算も07年同期比で71.3%増えるなど、音楽事業はフジサンケイグループのドル箱になっている。

原盤権にも手を伸ばす

テレビ局系が代表出版社に収まるようになった背景を、あるレコード会社の元社長はこう説明する。

「羞恥心のようなケースは稀。たいていはレコード会社や芸能プロが金をかけて育てたアーチストの曲をテレビがタイアップと称して使う。曲作りにはレコード制作費をはじめ多額のコストがかかるが、テレビはそうしたコストを負担しなくても代表出版社になれる。いまの時代、テレビと組んで番組の主題歌や挿入歌に使ってもらわないと売れないから、テレビ局、そしてテレビ局に影響力を持つ一部の大手芸能プロの発言力が強くなる一方です」

元社長によると、テレビ局は代表出版社の権利だけでなく、法外な番組制作費を要求してくるという。

「いまやテレビの主題歌はすべて利権で決まっているのが実態です。今年、うちのアーチストがある番組の主題歌を歌うことがテレビ局との話し合いで決まり、曲も完成した。ところが話題になりそうな番組だというので、後から別の大手レコード会社が3千万円の番組制作費(制作協力金ともいう)を支払い自分のところのアーチストの曲を押し込んだため、土壇場でキャンセルになった。キャンセルになる前、テレビ局のプロデューサーから『あと1千万円出してくれたら何とかする』と言われたが、冗談じゃないと言って帰ってきた。このところ番組の内容とまったく合わない曲が主題歌になることが多いが、それは利権で曲が決まっているせいだ」

音楽では、著作権以外の権利としてレコード会社など、レコード制作者が持つ原盤権がある。原盤権を持つレコード制作者は原盤をコピーしてCDやビデオにしたりCMに使うことができ、曲がヒットすればお札を刷るようにCDを増産して大儲けできる。この原盤権についても「ゴールデンタイムのテレビ番組の主題歌だと売れる可能性は極めて高い。こういうケースではテレビ局系の音楽出版社がレコード会社に『レコード制作費の一部を出すから原盤権を半分くれ』などと持ちかけ、原盤権を持つことが珍しくない」(元社長)という。これではテレビ番組や音楽の質が低下するのも当然だろう。腐敗したテレビ、芸能・音楽業界の行き着く先を小室事件は暗示していると言えよう。(敬称略)