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「楽天」と「CCC」統合説が浮上

八方塞がりの三木谷社長。土壇場で起死回生の一打となるか。

2006年10月号

「日本の放送を改革する志でやっている。ここで引いたら、オレが今までやってきたことをすべて否定することになる」――。「日本を代表するインターネット企業」との自負からか、楽天の三木谷浩史社長は、今春以降、再三にわたりTBS買収計画の撤退を進言する国重惇史副社長ら側近にかぶりを振り続けている。

 インターネット商店街やネット証券など本業の成長失速への懸念と、ライブドア・村上ファンド事件のショックによるレピュテーション・リスクの顕在化でジャスダックに上場している楽天の株価は今年1月の高値(11万9000円)から半値以下の5万円台に急落。TBS株買い増し資金の調達がままならないどころか、経営の先行きにも暗雲が漂っている。にもかかわらず、「メディア買収の夢」にこだわる三木谷の方針に、これまで支えてきた幹部や財界関係者から「つきあいきれない」との声が出始めている。実際、9月初めには側近中の側近だった社長室長も楽天のボードメンバーを外れ、社外取締役の間にも三木谷離れの動きがある。

消えない経営危機説

 今年1月のライブドア強制捜査と堀江貴文元社長の逮捕をきっかけに、怒涛のごとく押し寄せた世論の「ヒルズ族」バッシング。村上ファンドの村上世彰前代表の逮捕を経て、その余波が楽天や三木谷に襲ってくることは、旧住友銀行MOF(大蔵省)担当も務めた百戦錬磨の国重には容易に想像できた。だからこそ、国重は5月の連休前に水面下でTBS社長の井上弘と三木谷のトップ会談を画策、「村上ファンド事件発生前に問題収拾に動いた」(関係筋)。「国重さんはTBS株の多少の売却損と買収失敗のマイナスイメージを甘受しても、TBS問題を解決するのが得策と腹をくくっていた」(TBS周辺)ともいう。

 事件は別にしても、楽天がTBS株の大量取得(発行済み株式の約19%)に投じた約1100億円の巨額資金をいつまでも固定化する意味はなく、日銀のゼロ金利解除で金利先高感が高まる中ではなおさら。しかも「買い付け資金のうち600億円は新生銀行とあおぞら銀行からの高利の借り入れで、楽天株が一定水準以下になると一括返済を求められる契約」(銀行業界筋)とも指摘される。 社内でもネット部門のメンバーからは「TBS株に寝かせるカネがあるなら、システム強化などに投資すべきだ」との批判もくすぶっている。国重が度重なる進言やTBSとの解け合い工作に動いたのはそんな事情も反映していた。しかし、三木谷はTBS株保有にこだわり、経営と企業のレピュテーションの両面に打撃を及ぼす「TBS株という不良資産」は放置されたままとなった。

 その後の展開は国重の危惧したとおり。村上逮捕の6月以降、TBS周辺などから「三木谷も危ない」「インサイダー取引ばかりじゃなく、脱税や暴力団絡みの土地取引も浮上している」などというネガティブ情報が盛んに流れ、「三木谷逮捕説」など一連のスキャンダル報道につながった。そのうえ、TBS株価下落で楽天の保有株の含み損は一時、200億円近くまで拡大。楽天証券や楽天市場のシステム障害に加え、派手な買収発表からわずか1年余でクレジット部門の分割・売却に追い込まれ、186億円の特別損失を出したノンバンク、楽天KC(旧国内信販)の失策も重なったため、経営危機説さえ囁かれる始末となった。

 「数年内に経常利益1千億円」「ソフトバンクがSBIと資本関係を解消し、ネット財閥企業は楽天だけになった」。それでも三木谷は8月18日の2006年第2四半期(4~6月)決算会見で強がって見せたが、前四半期比から23%の営業減益という現実は否定できず。JPモルガン証券が「ネット商店街の先行者メリットの剥落が顕著」と断定し、投資評価を「売り」に格下げするなど、市場の成長期待はあえなくしぼんだ。

 「成長期待」に依存した時価総額経営を謳歌してきた分、一旦、期待が剥げ、株価が下がりだすと、投資家にも取引先にも社員にも一様に動揺が広がる構図は楽天も同じ。「現在1万6千店ある楽天市場への出店者の中に楽天株主が少なくない」(関係筋)ことも波紋を広げた。

 市場の信認を回復したい楽天としては、目先の収益を上げるには、出店料値上げが即効薬だが、そうしたら、株主でもある有力出店者から「TBS統合や楽天KC買収の失敗で株で大損をさせたうえ、そのツケをさらに業者に回そうというのか」との不満が高まるのは必至だ。

 実際、楽天市場からの退店数は増加傾向にあり、有力な加盟店がヤフーなどのライバルのネット商店街に店を移す動きも目立ち始めた。「ネット検索連動広告の発達で、従来の『楽天市場に行けば、最も品揃えが良く、お得なEC(電子商取引)ができる』という顧客や出店事業者への求心力は薄れている」(JPモルガン証券)とビジネスモデルそのものへの疑問が出始める中、今後はネット通販大手「アマゾンジャパン」や、次世代ネット「ウェブ2.0」の旗手でSNSを運営するミクシィなど新興ネット勢力も楽天の競合相手となる。「日本一」や「世界一」を連呼する三木谷の強気がポーズならまだしも、プロ野球球団の買収など「ITの旗手」として持て囃された昨年までの幻想を引きずっているとすれば、事は深刻だ。

みずほの齋藤頭取が頼り

 上場ですでに莫大なIT長者となった三木谷は良いが、生活不安を覚える社員からすれば、中長期的な経営安定を真剣に考えざるを得ない状況なのだ。

 楽天内部では「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との経営統合が起死回生の一打」と抜本的な生き残り策を探る声もある。「AVソフトレンタルの全国展開で約2千万人の会員を持つCCCとの統合計画ならシナジー効果にも説得力があり、TBS買収よりもよほど市場から評価される」との期待からだ。背景には、三木谷が旧興銀時代から、衛星放送、ディレクTVの日本参入などでCCCの増田宗昭社長と親しく、増田が楽天の社外役員を務めていることも作用している。しかも、CCCはコンテンツの合弁事業などでTBSとの関係も良好。ある楽天グループ関係者は「CCCも絡めればTBSとの業務提携プランもそれなりに見栄えがして、三木谷もTBS株売却を決断しやすくなるのでは」と期待する。

 問題は、業績好調なCCCの増田社長があえて落日感漂う楽天との経営統合にメリットを感じるかどうか。この点、業界は「統合実現のキーマンは三木谷の後見役で、増田とも親しいみずほコーポレート銀行の齋藤宏頭取」と見ている。昨年11月のTBSとの一時休戦や、楽天KCのクレジット部門のオリエントコーポレーションへの売却を仲介した齋藤が三度、三木谷救済を買って出るか。ただ「困った時の齋藤頼みも度が過ぎれば、三木谷の経営能力が問われる。また、プライドの高い三木谷が増田社長の軍門に降れるのか」(大手銀幹部)との見方もあり、楽天の起死回生シナリオの実現は容易ではなさそうだ。(敬称略)