2026年11月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
「難波のアッコ」と「浪商のハリ」は大阪のヤンチャな連中の間で今も語り継がれるレジェンド。「アッコ」とは芸能界のゴッド姉ちゃん、和田アキ子さん。後に阪神タイガースが優勝するたびに猛虎党が道頓堀にダイブして有名になる大阪・ミナミの戎橋で大立ち回り。荒くれ男を片っ端から道頓堀へ放り投げた。 「ハリ」は日本プロ野球で最多の通算3085安打を放って「安打製造機」の異名を取り、9月9日に死去した元プロ野球選手の張本勲氏。甲子園の常連、浪華商(現大体大浪商)で野球部員だったが、韓国人ということでひどい差別も受けた。理不尽な相手に真っ向から立ち向かい、取り囲む大勢のケンカ自慢を単騎で蹴散らした。「浪商のハリには手を出すな」が不良たちの不文律になった。 引退後はTBS系情報番組のスポーツコーナーに出演し、絶妙なタイミングで「喝!」と「あっぱれ!」を繰り出して人気を集めた。一時期は大阪の中堅鉄鋼商社、隆祥鉄鋼の副社長に就いていた。「韓国と鉄の取り引きをするというので一緒に仕事をしていた。渡韓して注文を取ったこともあった。株の売買をすると聞いたのですぐ辞表を出した」(1986年6月28日付の日本経済新聞)という。唐突な辞任は、85年9月に隆祥鉄鋼による南海電気鉄道(現NANKAI)の株式買い占めが表面化したからだ。プロ野球の南海ホークスは親会社が南海電鉄。買い占めに加担すれば球界に顔向けできない。 張本氏はホークスオーナーの南海電鉄会長、川勝伝氏の執務室に駆け込み、「たった今、隆祥鉄鋼を辞めてきました。南海電鉄、南海ホークスに弓を引くつもりは毛頭ございません」と平身低頭した。「あの暴れん坊が床に頭をこすりつけんばかりだったぞ」と川勝氏は笑った。無敵を誇った「浪商のハリ」も日本にたった12人の球団オーナーには頭が上がらなかった。
(松果堂)