2026年9月号 BUSINESS

再びMBOを狙っている様子も(TOCビルのHPより)
「The Ticking(時計がカチカチと鳴る)TOC」。8月5日、某外資系証券会社の日本株営業マンがこんな表題のメールを一斉配信した。「TOC」とは東証スタンダード市場に上場する不動産開発会社のテーオーシーだ。
メールはTOCのバランスシートを批判する。300億円に達する現預金や290億円もある投資有価証券、1890億円の賃貸用不動産、850億円ほどの時価総額。財務データを列記し「バカみたいに自己資本が厚い」「本業がリネンサプライとランドリー事業なんて冗談のようだ」とした。
過去の経営の混乱ぶりも紹介し、TOCが上場維持にこだわる様子を揶揄する。TOCは2007年に1株当たり800円でMBO(経営者よる企業買収)を試みたが、不動産ファンドのダビンチ・アドバイザーズが1株1100円で対抗TOB(株式公開買い付け)をかけたため頓挫した。
その後も株価に無頓着な経営を続け、ダビンチの最終TOB価格1308円を大幅に下回る水準で推移。足元の8月5日時点の株価は939円(終値)に過ぎず、株主の間では不満の声が噴出している。「PBR(株価純資産倍率)は0.7倍だが、不動産の含み益を考慮すると、実質的なPBRは0.4倍。東証が上場企業に求める資本コスト経営を無視している代表格だ」(不動産アナリスト)
株価が安いので、経営陣がMBOを再び試みるのは時間の問題だ――。そういう皮肉が、表題の「The Ticking」に込められている。
実は「The Ticking TOC」には根拠がある。TOCの「メタボ経営」に注目したアクティビスト(物言う株主)が群がり始めているからだ。
JR五反田駅から歩いて10分のところにあるTOCの本社には、外資系投資会社からの面談依頼が急増している。シンガポールの3Dインベストメント・パートナーズや香港のオアシス・マネジメントといった強面ファンドの面々だ。
TOCは作家の星新一の父親、星一が戦前に設立した星製薬が源流。戦後、星製薬の経営が傾くと、ホテルニューオータニを創業した大谷米太郎が買い、ランドリーと不動産に事業転換した。米太郎の三男でホテルニューオータニを運営する米一とその長男、和彦が主導的役割を果たした。1970年に星製薬の五反田工場を厚木に移転させると、同敷地にTOCビルを建設し、82年に東京卸売りセンターと統合した。現在のTOCは五反田TOCビルに加え、浅草ROXやTOC有明といった優良な不動産物件を抱える。
アクティビストが今になってTOCに群がり始めたのには理由がある。ダビンチがTOBを仕掛けた際に防戦買いを展開したTOC会長(当時)の和彦が25年に喉頭がんで亡くなった。「享年78歳だった和彦の従兄で、後任社長の卓男は和彦ほど上場維持にこだわっていない」(関係者)とされる。
TOCは今年5月、29年3月期を最終年度とする中期経営計画を発表したが、PBRやROE(株主資本利益率)など、上場企業が掲げる経営目標が一切開示されなかった。「株価をあえて安く誘導することで、MBOを再び狙っている公算がある」(国内証券幹部)という見方が出ている。
一方、TOCを狙うアクティビストでは3Dが最も積極的だとされる。「3Dは25年に上場型不動産投資信託(REIT)2社に敵対的TOBをかけて経営権を取ろうとした。中小型株に対しても似たような戦略を取ろうとしている」(企業防衛担当の弁護士)
アクティビストが騒ぎ始めるのか。それともTOCがMBOに再トライするのか。まさに「The Ticking」である。(敬称略)