2026年3月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
ソニーグループはテレビ事業を分離し、中国のテレビ大手TCLグループ主導の合弁会社に移管する。普通のブラウン管は画面が球状で隅の画像が歪むのに対し、ソニーが開発したトリニトロン方式ブラウン管(1968年発売)は画面の水平方向は円を描くが垂直方向は真っ直ぐの円柱状だ。画像が端っこまで歪まないためエンジニアはCADの設計図表示に重用した。高画質や明るさからNHK放送技術研究所や航空管制用レーダーはトリニトロンの独擅場だった。開発を主導したソニー創業者の井深大氏は92年に産業界で初めて文化勲章を受章した。
トリニトロンを平面化したテレビ「WEGA(ベガ)」(97年発売)は大ヒットした。当時の液晶は画面サイズが小さくモバイル機器用だったが、シャープ社長の辻晴雄氏は液晶テレビとしての将来性を確信し、ソニーに「一緒にやろう」と打診した。しかし「WEGA」の成功に酔うソニー社長、出井伸之氏は取り合わなかった。この判断ミスが祟り、TCLへのテレビ事業移管の伏線となった。前任社長の大賀典雄氏は「ソニーは常に革新的なものを世の中に出さねばならない」と語ったが、出井氏はそのスピリットを継承せず、ソフト路線に傾斜した。
46年に前身の東京通信工業が発足してから2010年まで、ソニーが社会に残した足跡を製品とともに振り返った『ソニークロニクル2010』という本がある。日本初のトランジスタラジオ、パスポートサイズの8ミリビデオはいずれも名前が「TR55」だ。携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」、ノートパソコン「VAIO」を持っていればオシャレを演出できた。チャーミングな製品群が目映い。現会長の吉田憲一郎氏がいくら「感動を届ける会社から感動を創る会社への転換」を唱えてもその言葉は上滑りする。「ソニークロニクル2026」刊行は期待薄だ。
(松果堂)
【編集部より】
前号の「メルカリ『スイッチ2』が暴く倫理観」記事中で引用したブログ投稿に瑕疵があり、取り消します。