すでに米中は無人AI「ロボタクシー」を実用化。事故が起きても、貴重なデータと位置づける。日本は「安全主義」の呪縛で、米中と自動運転技術の差は広がるばかり。
2026年3月号 LIFE

「CES2026」では「ロボタクシー」が会場を席巻した
すでに米中の路上を日常として駆け抜けている「ロボタクシー」(自動運転タクシー)。1月に米ラスベガスで開かれた世界最大級のテクノロジー見本市「CES2026」でも、会場を席巻していた。だが、日本は、高速道路で手を離せるようになった「レベル2(高度運転支援)プラス」の進化に安堵している状況だ。その間に世界では、人間がハンドルを握る時代を過去に追いやろうとしている。
CESでの主役の1社は、米アルファベット傘下のウェイモ(Waymo)。披露された最新世代のシステムは、センサー構成の最適化や、全天候に対応するようなAI(人工知能)を搭載。日本での実証も進み、「東京の複雑な道路環境も、既存の枠組みで十分対応できる」と幹部は胸を張る。
対する中国勢もジーカー(Zeekr)などの新興メーカーは、国家の巨大な支援を背に、膨大な走行データを吸収する「エンド・ツー・エンド(E2E)」AIを実用化。中国勢は、先進国の安価なコピーというかつての評価は過去のものだ。彼らのAIは、人間のように周囲を見て、瞬時に判断し、滑らかに操作するという直感的なドライビングをこなす。
韓国勢も追撃する。現代自動車グループは、傘下企業を通じて、ロボタクシー事業を世界規模で本格展開する壮大な構想をぶち上げた。
翻って、日本勢の現在地はどうか。トヨタ自動車をはじめとする国内勢が示すのは、依然としてほぼ「レベル2プラス」の域を出ない。それはあくまで、主役である人間をシステムが「補助」する仕組みだ。日本でも、「レベル4(特定条件下における完全自動運転)」の公道走行はすでに解禁されている。しかし、実際に路上を走っているのは、限定的な地域での実証実験が大半だ。なぜ、出遅れるのか。
最大の要因は技術の欠如ではなく、失敗や事故を一切許容しない「社会風土」や「安全主義」がある。国内でひとたび自動運転車が軽微な接触事故でも起こせば、メディアは騒ぎ、世論は非難を浴びせる。この過剰な反応がメーカーの挑戦心を削ぎ、政府を「安全な実証」という名の逃げ道に閉じ込めてきた。
それとは対照的に、米中は合理的かつ冷徹だ。事故が起きても、それを「学習のための貴重なデータ」と位置づけ、プログラムを修正して、次のステージへと進む。最新のAI、とりわけE2E技術の開発では、机上の空論や閉ざされたテストコースでのデータなどよりも公道の「場数」が大きい。
日本のお家芸でもある品質への過度なこだわりも背景にある。エンジンの精度やすり合わせの技術で世界を制した成功体験がネックになり、ソフトウェアやAIが主導するゲームチェンジに対応できていない。「もしこうなったら、こう動く」という無数の条件分岐を書き込む「ルールベース」に固執している間に、世界はすべてをAIに一気通貫で任せるE2Eへと舵を切った。ブラックボックス化を極端に嫌う日本の「生真面目さ」が、AI時代の進化スピードを遅らせるのは皮肉だ。
日本が「ガラパゴス」な世界にいる間にも現実は動く。ウェイモはすでに日本交通などと組み、日本の公道データを吸い上げ始めている。このままでは、都心の基幹インフラとしての移動手段を海外勢のプラットフォームがカバーし、日本の自動車メーカーは単なる「車両供給係」になる。最近話題の「デジタル小作人」が現実味を帯びる。日本には世界最高峰レベルの製造技術が残っている。それを武器に変えるため「アクセル」をどう踏み込むかが問われる。