取引先や元役員が指摘する不正会計疑惑の中身。責任を負うべきは永守氏だけなのか。
2026年2月号 BUSINESS

永守氏が名誉会長で残ることは院政容認に等しい
Photo:Jiji
「不正会計疑惑」で揺れるニデックで、岸田光哉社長兼最高経営責任者(CEO)が2026年1月5日の年頭挨拶の場で社員らにこう語りかけた。
「高い倫理観を持ち、あらゆるハラスメントを許さず、誰から見られても胸を張れる行動を選択する。この真摯であること、誠実であることこそが、ニデックが社会から再び必要とされるための唯一の道です」
ニデックでは経営陣が関与した可能性がある不適切な減損処理や、中国における購買一時金の不適切な処理などの疑惑が発覚したため、会社から独立した第三者委員会が設置されて調査が行われている。
「購買一時金」とは聞きなれない言葉だが、ニデックの中国における取引先企業の経営トップは「これはキャッシュバック。ニデックに設備や部品などを納入していると、期末に値引きや割り戻しという名目で現金の支払いが求められるケースがある」と指摘する。
ニデック元幹部は「(購買一時金を)社内では協力金とも呼んでいた。これとは別に上層部からの指示で、仕方なく取引先の同意を得ないで支払期日の変更もやったことがある」と語る。
また、前出・取引先企業の経営トップは「私の会社に対しては、中国の浙江省にあるニデック関連会社の日本人社長から割り戻しとは別に多額の『裏リベート』も要求されたが、それは断りました」と語る。
これらが事実ならば下請代金支払遅延等防止法(下請法)などに抵触するのではないだろうか。第三者委員会とは別に岸田氏を委員長とするニデック再生委員会が設立され、組織風土の改革などを進めている。こうした調査の中で、「不正会計疑惑」とは別に、下請けとの不適切な関係が洗い出されている可能性がある。このため、岸田氏は、「誰から見ても胸を張れる行動」を求めているのだろう。
下請けとの不適切な関係の背後には、自社の業績を向上させるためには手段を選ばないような組織風土があるとみられる。そうした組織風土を築き上げてきたのが、創業者で名誉会長を務める永守重信氏であることは衆目の一致するところだ。
「不正会計疑惑」についても、経理部門などを担当した元役員はこう語る。
「業績が悪化していると『何でもいいから対応案を出せ』と永守氏から直接指示を受けたことがある。頻繁に電話がかかってくるなど夜も寝られないほどの強烈なプレッシャーを受け、対応案を半日で考えなければならず、やむなくグレーな手法を取ってしまった。私は減価償却の時期を遅らせて、業績をよく見せたこともある。グレーな対応をすると後にリスクが生じる可能性があることを永守氏には説明したうえで承認を受けたので、永守氏が全く知らないはずがない」
こうしたグレーな処理がニデックでは日常茶飯事に行われていたのではないかと推認できる。ある事業本部を担当していた元役員は「永守氏に『減損処理が必要になっている』と報告すると、『減損すると赤字になるので、収益目標を上方修正した上で対応しろ』と指示を受けた。しかし事業自体が苦戦しているので、それは無茶な指示だった」と語る。
本誌は具体的な事業本部や数字、指示があった時期も把握しているが、情報源の特定を避けるため、詳細は敢えて書かない。
永守氏からの指示やプレッシャーは常軌を逸していると言っても過言ではない。例えば海外にいても時差に関係なく連絡が来るという。このため海外駐在になると身心の体調を崩す人もいたようだ。経理部門を担当した別の元役員は「業績が悪いと、正月休み中に永守氏から『君は自宅に帰省して休んでいる場合ではない』という連絡が来た」という。
一定の権限を持つ第三者委員会であれば、こうした事実を把握し、裏付けを取ることは容易であろう。第三者委員会をサポートするニデック内の特別調査支援室長には社長室長だった川阪康樹氏というエース級社員を配置。同室担当役員には元トヨタ自動車人事部長の南井正之氏が就き、会社も万全の体制で全面協力している。
これまで指摘してきたように「不正会計疑惑」が社内で多く見られる中、ニデックの会計監査体制の課題についても今後、追及される可能性がある。実際、「第三者委員会の調査を受けた人の中には、永守氏と監査法人の関係が適切だったかとの質問を受けた人もいる」(関係者)。
「永守包囲網」が出来上がったのだろう。それを悟ったのか同氏は昨年12月19日、代表取締役グローバルグループ代表を突如辞任し、非常勤の名誉会長に就いた。同社が発表したプレスリリースには「本人の意向」が強調されて太字で書かれているが、調査が進み、事態が解明されて「不正会計疑惑」の責任を問われる前に自ら引いたと見ることもできる。
しかし、第三者委員会の調査が出る前に辞任を認めた取締役会の判断には問題があるのではないか。永守氏は辞任コメントの中で、自分が企業風土を作ってきたことを認め、世間に迷惑をかけた点を詫びている。調査結果が出れば、おそらく永守氏はその結果責任から逃げることはできないだろう。
その前に辞任を認め、名誉会長に就任させること自体、ガバナンスが効いていないと受け止められても仕方ないのではないか。ニデックの取締役会11人のうち7人が社外取締役だったが、健全に機能しているとは言い難い。
永守氏は経営トップを辞したとはいえ、創業者としての影響力は大きい。このまま名誉会長として残れば、院政を認めるに等しいのではないか。
25年9月末現在で永守氏はニデック株を8.61%保有する第2位の株主であり、氏個人の資産管理会社であるエスエヌ興産保有分の3.52%を加えると、持ち株比率は12.13%にもなる。株主としての影響力も大きい。
ニデックが再生するのに岸田社長は「組織風土改革」の必要性を訴えるが、そのためには永守氏の影響力を完全に排除できるかがポイントとなるだろう。市場もそれを期待していると見られる。12月19日金曜日の午後に辞任を発表したが、週明け22日の株価は上昇して引けた。
院政排除には、永守氏のイエスマン化していると見られる社外取締役の総入れ替えは不可欠ではないか。加えて、創業メンバーで番頭的存在だった小部博志会長、永守氏以上に現場に強烈な圧力をかけたとされる北尾宜久副社長、戒田理夫専務執行役員ら、永守氏への忖度に長けた側近役員の排除も必要になるだろう。