「総選挙」前哨戦/2月1日川口市長選/「外国人問題」が最大の争点

注目の26年2月1日川口市長選。「外国人排除」を明確にする候補者から多文化共生路線の候補者まで多士済々が立候補。

2026年1月号 DEEP [川口市民の選択]
by 伊藤博敏 (ジャーナリスト)

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11月20日の記者会見(高木功介(中央)、諸井真英両埼玉県議(右)と奥富精一川口市議)

国民が外国人に苛立っている。東京・浅草、大阪・道頓堀などは観光客に溢れ、「どこの国か」と戸惑うほどだ。電車に乗ればキャスター付きバッグで通路をふさぎ、シルバーシートを占領する。居酒屋、コンビニの従業員は「外国人だらけ」で仕事の領域が奪われている。外国人旅行者約3700万人(2024年の累計)、外国人労働者約370万人(同)というのはそういう規模だ。

25年7月の参院選挙で外国人対策が争点のひとつとなり、「日本人ファースト」の参政党が躍進した。物価高、消費税、少子化など喫緊の課題に外国人が加わったのは、同質性に慣れた国民が生活を侵食されて怖れを感じ、「失われた30年」の間に沈下した国威と国力に自信を失っているからだろう。

高市早苗政権はその思いをすくい取るべく外国人政策の見直しに着手したが、「国民の苛立ちの代表」のような存在となっているのが、埼玉県川口市のクルド人である。出入国在留管理庁(入管庁)が持つ24年末のデータで川口市内のトルコ国籍者は2206人。クルド人は「国を持たない民族」として知られ、多くがトルコのパスポートで入国、難民申請しても認められずに「仮放免」されて、一部は不法就労している可能性がある。

川口市の在留外国人は中国人約2万6千人、ベトナム人約6200人、フィリピン人約3千人で、人数的には少ないクルド人が外国人問題を代表するのは、住民とのトラブルが多く「共生社会の難しさ」を体現しているからだ。対立は激しく、クルド人を認めるか認めないか――。この二択しかない。共生は容易ではないが、そこを乗り越えれば「回答」が見えるかも知れず、それも象徴としてのクルド人問題である。

書類送検された「視察団追跡」事件

事件の現場「赤芝新田ヤード地区」

分断は激しい。刑事事件に発展した「視察団追跡」に複雑さが集約されている。

25年6月2日、高木功介埼玉県議が主催して超党派の地方議員有志が「川口芝園団地」や「赤芝新田ヤード(資材置き場)地区」などの視察を行った。事件が発生したのは最後の視察場所であるヤードを、ワゴン車でゆっくり走行している時だった。突然、「バンバン!」と後ろから叩く音がした。高木氏は「襲撃」と判断して運転手に命じてその場を離れた。だが、追尾に気付いて110番通報したうえで市内東部の武南警察署に待避。しかし追跡車両は警察駐車場まで追尾したうえ、3台に増えていて前を塞ぐ形で駐車し、4~5人で罵声を浴びせた。「出てこいよ!」「降りろよ!」

口調は激しく、高木氏らはこれを公務に対する妨害、威迫、監禁する行為であるとして、後に公務執行妨害罪、監禁罪、威力業務妨害罪、暴行罪で刑事告訴した。一連の模様は動画撮影されて公開されており、高木氏のほか同じ車に乗っていた奥富精一川口市議、視察団だが別の車だった諸井真英県議が『ABEMA Prime』などで取材対応し、11月20日には記者会見を開き、「埼玉県警が11月16日までに書類送検しました」と発表した。

川口市では日々、外国人との間にトラブルが発生し、暴走行為や暴言、犯罪的な行為が多かった。今回、告訴が受理され、捜査のうえで書類送検されたことは、ひとつ大きな前進だ――。

三議員は、こう口を揃えた。難民申請のクルド人は手続きの間、就労が可能で、解体業に従事することが多い。ファミリーの結束が強く、解体は経済難民化したクルド人の「家業」のようなもの。現在、埼玉・東京圏内では、低層住宅解体の半分以上は、クルド系業者だと言われている。その業者のヤード集積地が赤芝新田で、廃材などを山と積んだトラックは「クルドカー」と呼ばれ、地区内を疾走する。従って、「現場の視察」にはそれなりの意味はある。

ただ、ここ数年、ヤードにスマホを向け、中の人や車を勝手に撮影し、XやYouTubeなどに、「違法就労」「危険運転」などと投稿する人がいた。時には、「クソクルド!」「早く帰れ!」などと罵倒されることもあり、クルド人も神経を尖らせている。ヤードは条例によってフェンスで覆うことが義務付けられているが、フェンスには「撮影禁止」の張り紙が目立つ。

問題となったヤードは国道から少し入った緩い坂道の右側にあり、「バンバン」と叩いたのはヤードを所有するクルド人の日本人妻だった。被疑者となり検察の聴取も受けたというクルド人がこう説明する。

「何者かわからなかったんだよ。(スモークフィルムが貼られて)なかが見えない車に乗って盗撮していた。しかも他県ナンバー。住所や名前がネットにさらされて怖い思いもした。だから奥さんが、『何してんの』と聞きに行った。逃げたから怪しいと思って(仲間に)連絡を取り、110番通報して追跡した。事前に連絡をもらえば、キチンと対応したよ」

記者会見やテレビ番組で、出演した議員に対し「議員と名乗ればよかった」「話し合いができたのでは?」といった質問が飛んだが、高木氏は「過去に撮影を咎められ、取り囲まれ、恐怖を感じたことがある」と言い、安全を第一に考えたという。また、クルド人が多く住む地区を選挙区とする奥富市議は、過去に「共生」のための努力を何度もし、クルド人と日本人との架橋となることを目的に設立された日本クルド文化協会などとの協議を重ねてきたが、「何度注意を喚起し、改善を申し入れても一向に改まらず、改めようともしない。対話は諦めました。今後も住民の側に立って陳情を聞き、務めを果たすだけです」と対立を恐れない。

クルド人の子ども約400人が生活

溝は深い。それ以上に問題なのは、マスメディアとSNSがそれぞれの立場で情報発信するため、溝が広がっていることだ。

クルド問題を報じるマスメディアは、批判派と擁護派に分かれている。クルド人の引き起こすトラブルを批判的に報じるのは『産経新聞』である。同紙とデジタル版『産経ニュース』は2023年7月から24年12月までの約1年半、「『移民』と日本人」と題して掲載、25年1月に書籍化した。

<(クルド人の一部と地元住民の軋轢を)大手メディアが報じることはほとんどありません。産経新聞に加え、一部ネット系メディアや個人のSNSが伝えるだけです>

同書は<序文に代えて>でこう断言している。他のメディアが報じないことはないが扱いは小さい。クルド人問題の深刻さを伝えたのは、女性を巡るトラブルで23年7月、市内の総合病院前にクルド人ら約100人が集った騒乱事件だったが、さいたま地検が7人全員を不起訴処分にするまでを詳細に報じたのは産経だけだった。

大手メディアがクルド人問題に消極的なのは、報道が「差別」と見なされることを嫌う側面もある。実際、クルド人に対するヘイト活動は激しい。24年2月以降、「クルド人を叩き出せ!」「偽装難民を根絶せよ!」といったヘイトスピーチを繰り返していた「日の丸街宣倶楽部」に対し、さいたま地裁は「日本クルド文化協会」の半径600メートル以内でのデモを禁止する仮処分を決定した。また、SNS空間では、クルド人問題を「難民申請は偽装」「川口の治安を乱す」といった論調で批判するXやYouTubeが圧倒的で、同調意見、再生回数も多い。

クルド人はトルコやシリア、イラン、イラクにまたがる山岳を中心とした「クルディスタン」と呼ばれる地区に居住する約3千万人の民族である。1990年代から川口市や隣接の蕨市に住み始め、やがて家族や親族を呼び寄せ、居住者は増えていった。入管庁への難民申請はなかなか認められない。だが、申請を繰り返し「仮放免」で10年、20年と居続ける人が多く、既に子どもの数は約400人に達して「生活の場」が出来ている。ただ、24年6月施行の改正入管法で難民申請中であっても、2回認められなければ強制送還されるようになった。

トルコ生まれの帰化人も立候補

大手メディアは「人権」の立場に立つ。眼前のクルド人は就労や医療保険への加入も認められていない「弱者」だとして、政府や自治体に解決を求める報道を行ってきた。改正入管法に際しても、「親の強制送還でクルドの子どもの夢を奪うな」といった論調の記事が少なからず見られた。

SNSとマスメディアで論調が分かれるのは昨今の傾向である。兵庫県知事のパワハラ問題では、斎藤県知事・SNS対県議団・既存メディアという構図が明確だった。大手メディアは「オールドメディア」という呼称で呼ばれ、「多様性を重んじるリベラルな姿勢」を疑問視する層が増えた。その結果、対立軸としてのSNSでは保守的な言論が人気を集めており、その保守回帰が「ナショナリズム」と「反移民」につながる。クルド人問題では「犯罪を報じない、偏向したオールドメディア」という批判となり、それが選挙結果にも表れている。

7月に行われた参院選挙区(定数4)で参政党新人の大津力氏は最下位当選だったが、川口市では他候補を引き離す4万1923票とトップの票を獲得した。「(川口で)文化や風習の分からない人もいて住民は困っている。際限のない外国人労働者の受け入れに歯止めをかける」という大津氏の主張が受けた。

一方、SNS時代ならでは「複雑さ」もある。トルコでは23年5月末に大統領選が実施されエルドアン氏が3選を果たしたが、選挙中、エルドアン陣営は「対立候補はテロ組織クルディスタン労働者党(PKK)と関係がある」というキャンペーンを張った。クルド問題に詳しい中東アジア情報戦略研究所によれば、その過程で日本に「クルド人排除」「日本を守れ」といった大量の投稿がトルコから日本に送られたという。日本クルド文化協会とPKKとの関係をトルコ政府が指摘しており、ネガティブキャンペーンの一環という見方もできよう。確かに30年以上の歴史を抱えるクルド人問題だが、SNSを中心に「反クルド」が急速に盛り上がったのは23年以降であり、一方向に流れるSNSの特性を利用した勢力がいた可能性は否定できない。こうして川口・クルド人問題は、ごくわずかな人数の限定した地区の話ながら、難民と入管、分断するマスメディア、先鋭化するSNS、政治家との対立、トルコの仕掛け説などさまざまな問題が複雑に絡み合う。

そうしたなか川口市では26年2月1日、市長選が実施される。「外国人排除」を明確にする候補者から多文化共生路線の候補者まで多士済々。そこにトルコ生まれで日本に帰化したバシャラ・セルダル氏が出馬を表明した。クルド人との関係は不明ながら外国人問題が最大の争点となるのは間違いない。情報が錯綜して判断が難しいなか、市民はどんな決断を下すのだろうか。

著者プロフィール

伊藤博敏

ジャーナリスト

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