三菱商事と国立科学博物館がコラボ/中高生が「生物多様性研究者のお仕事」を体験

第一線の研究者とのワークショップを通じて、将来の進路や自分の未来を考えるきっかけに

2025年12月号 INFORMATION

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生物多様性について説明する講師の國府方吾郎さん

夏休み真っ盛りとなる2025年8月7日、東京・上野の国立科学博物館で、中高生を対象に「生物多様性研究者のお仕事」を体験できるワークショップが開催された。この取り組みは、三菱商事の社会貢献活動のプログラムの1つで、会場となった「日本館」の講堂には、抽選に当選した約30人の中高生が集まった。チームに分かれ、座学や植物の「標本づくり」を体験した。開催の狙いについて、主催する三菱商事は「研究者の仕事を実際に体験してもらい、科学や自然の魅力を感じながら、将来の進路や自分の未来を考えるきっかけにしてもらいたかった」と説明する。

人類の生命を支える「生物多様性」

講師は、国立科学博物館・植物研究部の多様性解析・保全グループ長、國府方(こくぶがた)吾郎さん(理学博士)が務めた。沖縄県出身の國府方さんは、地元の高校・大学を卒業後、広島大学大学院を経て、国立科学博物館に就職した。学生時代から、琉球列島や九州以北の日本や台湾などの絶滅危惧植物の分類や実態を解明する研究をライフワークとしている。國府方さんは研究者になった経緯や、絶滅危惧植物の研究の大切さと面白さについて説明。自身のエピソードを交えながら、和やかな雰囲気で語りかけると、中高生らは一気に話に引き込まれ、会場には笑いがこぼれる場面もあった。

地球上には細菌から動物に至るまで、約3000万種類の生き物がいるとされる。その中で、食物連鎖があり、それぞれが、すみかを持つ。また、ヒトに血液型の違いがあるように、生き物には、さまざまな遺伝子がある。これらの「生態系」「種」「遺伝子」の3つから構成されるのが「生物多様性」という概念だ。とても難しいテーマだが、その仕組みについて、國府方さんが写真や図表を使いながら、わかりやすく説明し、中高生らは理解を深めていった。

日本には約7500種類の植物が生息するが、人間の生態系などが影響し、そのうち、約25%が絶滅危惧植物とされている。國府方さんは、今、ヒトが生きている世界について「生態系」「種」「遺伝子」の多様性がハンモックを形成し、その上に人類が休息していると例えた。かつては、ある種が絶滅しても、それに代わる種が分化していたが、今は絶滅が種分化を上回り、ハンモックに開いた穴は補修されにくくなっているという。國府方さんは子供たちに「人類の生命を支えてくれる生物多様性を守るために絶滅危惧植物を保全しなければならない」と研究の重要性を訴えた。

埼玉県内の中学3年生は「生物多様性というのはよく聞くけど、そこまで理解していなかった。ワークショップに参加してみて、よく理解できた。生物の進化の道のりも興味深かった」と感想を述べた。國府方さんは「生物多様性というキーワードを思いながら、身の回りを見つめ直し、私たち人間は生物多様性に支えられて、生きていることを実感してもらいたかった」と話す。

「標本づくり」で研究者の仕事を体感

「標本づくり」に挑戦する中高生

ワークショップでは、研究者の仕事を体感してもらうため、「エノコログサ」の標本づくりも行った。新聞紙や段ボールなど身近な道具を使って、中高生らは手を動かしながら、研究者の仕事を体感した。國府方さんは、すぐに新聞紙に挟むと、きれいな標本ができると説明。標本を挟んだ新聞紙の間に段ボールを入れて、上に重しを載せて乾燥させ、乾きにくい植物は新聞紙を毎日交換した方が良いとアドバイスした。その後に、厚紙に植物をつまようじや木工ボンドなどを使って貼り、名前をラベルに記して、標本づくりが完了した。参加者からは「家でも標本を作ってみたい」「次は動物の標本に挑戦してみたい」という声があがるなど、充実した表情を見せていた。ワークショップ終了後は、閉館後の館内ツアーが行われ、中高生らはさまざまな標本を見学。國府方さんとの質疑応答の時間を楽しみながら、展示室内を回った。

次世代を担う人材が育つことに期待

ワークショップ終了後の館内ツアー。中高生から、さまざまな質問が飛び出した

三菱商事では1973年に社会環境室を設置し、現在は「インクルーシブ社会の実現」「次世代の育成・自立」「環境の保全」の3つの軸に沿った社会貢献活動を続けている。国立科学博物館との取り組みも、この活動の一環として行っている。

国立科学博物館とのコラボについて、三菱商事は「これからも中高生が第一線で活躍する研究者と交流できる機会を提供したい」と意気込む。國府方さんも「三菱商事が掲げる『次世代の育成・自立』『環境の保全』は、当館の目的とも一致している」と賛同。その上で「今後もお互いの強みを最大限に活用しながら、同様のイベントを企画・開催したい」と語る。

参加した中高生からは「とても将来のためになる有意義な時間になった」「自分の考えが今よりも広がり、自分の夢に少し近づけた」と前向きな意見が多くあった。この取り組みを通じて、科学や自然に興味を持つ次世代を担う人材が育っていくことを期待したい。

(取材・構成/編集部 黄金崎元)

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