独占ルポ/世界65カ国が集う「EXPO酒場」/日本の「スナック文化」を世界に拡散!

世界65カ国が集う「EXPO酒場」!次は万博会場と大阪の街を繋ぐスナックにご案内!

2025年7月号 LIFE
by 竹田忍 (産業ジャーナリスト)

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65カ国311人が集まったエキスポ酒場(5月30日)

2025年国際博覧会(大阪・関西万博)が開幕して2カ月余り。メディアは相変わらず日本国際博覧会協会(万博協会)による想定来場者数2820万人達成の前提となる1日平均約15万3千人に届かず、クリアできたのは5月30日と31日だけとネガティブに報じ続けている。「来場者が少ない」と批判しておきながら、「会場東ゲートで入場待ちする長蛇の行列」を否定的コメント付きで現場中継する節操の無さ。一般視聴者は万博が不人気なのか、人気が出てきたのか判断に困る。

一部新聞社とテレビ局はかつて橋下徹元大阪市長に記者会見で論戦を挑み続けたが、毎回コテンパンに論破され、その様子がYouTubeで拡散する屈辱を味わった。恥をかかされ、大阪維新の会憎しに凝り固まった結果、「万博=維新」と位置づけ、万博に背を向けているのではないかと邪推してしまう。

スタッフ労う「拡張万博」

万博協会によると入場券の販売枚数は6月6日時点で1344万枚。現在の販売ペースを維持すると8月上旬には黒字化ラインの1800万枚に到達する。2820万人よりも先に1800万枚を深掘りする方が建設的だろう。

大阪市の横山英幸市長は6月3日、「むちゃな計画を立ててリピーターが減っていくようであれば、来場者が減ってしまう。2820万人を下回ったとしても議論を」と述べ、来場者が快適に過ごせる人数の目安を改めて算出するべきだという考えを示した。足で稼ぐ取材を怠り、万博協会の発表資料に依存して2820万人ばかりにこだわる報道姿勢は安直だ。

多面的な角度から万博がもたらす効果やその意義を検証・分析する必要がある。シンクタンクのアジア太平洋研究所(APIR)は関西全体を仮想的なパビリオンに見立て、会場周辺で開かれる関連の催しを「拡張万博」と規定した。拡張万博を実施すれば経済波及効果は最大3兆3667億円になると試算している。

EXPO酒場に掲げられた幟

具体的な動きも起きている。5月30日夜、大阪・心斎橋のPARCO地下2階の共用スペースには「パビリオン・ヒーローズ・ハングアウト(パビリオンの英雄たちのたまり場)」という幟が掲げられていた。大阪・関西万博に出展している各国パビリオンのスタッフたちをねぎらうための「EXPO酒場」会場である。

午後7時を過ぎると万博パビリオンで自分の仕事を済ませた各国のスタッフが顔を出し、差し入れの缶ビールや缶チューハイを片手に談笑を始めた。あちらこちらで「カンパイ」「スコール」というかけ声があがる。「日本のお酒はおいしい」とスタッフたちは話す。2021年東京五輪で山崎製パンの「ランチパック」が海外の選手や記者から大好評だったのと同じだ。スタッフが帰国後に「日本にはジャパニーズ・ウイスキー以外にもおいしいお酒がある」と伝えてくれれば新たな商機が生まれる。

パビリオンは午後9時に閉館する。片付けを終えたスタッフが続々と合流し、午後10時には世界65カ国のパビリオンから集まった311人の人、ひと、ヒトであふれた。前回5月13日に大阪・梅田のルクア大阪で開いた時は55カ国、250人だった。各国スタッフの間でEXPO酒場の存在が浸透してきた。

今年1月に閉館した新阪急ホテルは今、海外パビリオンのスタッフ宿舎に充てられている。ホテルと夢洲の万博会場を行き来するだけでは退屈だ。「仲間と交流する場が欲しい、という声が上がるのは開幕前から予想できた」と万博を勝手に応援する一般社団法人「demoexpo」代表理事の花岡洋一氏は語る。そこでEXPO酒場のイベントを仕掛けた。

チラシやビラだけに頼らず、口コミと米国発の対話アプリの中にできていた万博コミュニティーを通じて情報を拡散したのが奏功した。日本では無敵のLINEも、万博に参加する世界158カ国・地域が相手では分が悪い。

三菱総合研究所、阪急阪神ホールディングス、JR西日本などいたるところにいる賛同者が尽力してPARCOやルクアの協力を取り付けた。サントリーホールディングスの鳥井信吾副会長(大阪商工会議所会頭)もサポーターの1人で物心両面の支援を続けている。

2021~22年のドバイ万博ではこうした取り組みがなかった。21年の東京五輪はコロナ禍の中で開催しており、多数が1カ所に集まるイベントは憚られた。「大阪・関西万博ならやれる」と考えた花岡氏は3年前にプロジェクトを立ち上げ、東北から九州まで全国各地で同志を募ってEXPO酒場を先行開催した。「それぞれの地元が地域活性化に万博をうまく使って欲しい」と狙いを語る。

大阪市と大阪府が大阪への万博誘致に意欲を示したのが2014年。17年に大阪は正式立候補し、18年に博覧会国際事務局(BIE)総会の投票で大阪開催が決定した。demoexpo自体は開催決定に先立つ8年前に活動を始めた。「開催の前景気が盛り上がらないことに危機感を抱いた」からだ。花岡氏は「一過性のインバウンド(訪日外国人)ではなく、半年間を暮らす海外の万博スタッフと友達になることが大切。次につながる関係を築き、交流がレガシーとなって残るようにしたい」と話す。

鳥井氏は1970年の大阪万博当時は高校生で、「ソ連館とアメリカ館は当時の2大国家の威信をかけた展示だった」と振り返る。「1889年のパリ万博ではエジソンの白熱電球が会場の夜間照明に使われ、万博後は夜の過ごし方が一変した。近代文明社会を表現し、リードする万博のようなコンテンツは他に存在しない」と説く。

大阪市内のスナックに案内

鳥井信吾・大阪商工会議所会頭(左)とdemoexpoの花岡洋一代表理事

花岡氏と鳥井氏にはEXPO酒場と連動させようと温めている構想がある。万博会場と大阪の街を繋ぐプログラム「夜のパビリオン」だ。「万博スタッフたちを10人ぐらいずつのグループにして大阪市内のスナックに案内したい」と考えている。

「インバウンドの間でもスナック・ツアーは大人気だし、米ボストン出身の元サントリー社員は『日本のスナック文化』でピッツバーグ大学大学院の博士論文を執筆中なほど」と鳥井氏。スナックのママさんはコミュニケーション能力が高く、初めて会うお客さん同士でも会話を巧みにリードして仲良くさせてしまう。ママさんの力を借りて万博スタッフたちにスナック文化を伝え、OSAKAやKANSAIのファンになってもらおうというのだ。

サントリーにとってスナックはパートナーのようなものだし、demoexpoの仲間にも「大阪のスナックなら任せておけ」という猛者が沢山いる。どの店に連れて行くか選定を進めているところだ。無料とはいかないが、極力自己負担を軽くする方策を探っている。

5月13日と30日のexpo酒場では閉店直前にDJの選曲でABBAの「ダンシング・クイーン」がかかり、全員が大合唱した。次は大阪市内のスナックでカラオケの「ダンシング・クイーン」熱唱が聴けるかも。地に根を張った楽しい「拡張万博」がそこにある。

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竹田忍

産業ジャーナリスト

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