「令和の風雲」/憲法いかし、希望ある日本に/寄稿 山添拓・日本共産党政策委員長・39歳

2024年9月号 POLITICS [「令和の風雲」]
by 山添拓(日本共産党政策委員長・39歳)

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1984年生まれ。京都市出身。東大法学部卒。2011年弁護士登録。16年参院初当選(東京選挙区)。22年再選(2期目)。党常任幹部会委員、政策委員長。趣味は鉄道、山登り、写真撮影、駅そばめぐり。

NHKの朝ドラ『虎に翼』に、思わず見入ってしまう。「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」――。主人公が、新聞に掲載された新憲法14条を食い入るように読む、導入シーンから印象的だった。女性差別はもとより、様々な差別と、それに対する「はて?」という素朴な疑問が描かれ、その多くがいまにつながっている。各地でお会いする方にもファンは多い。単に共感するのにとどまらず、エンパワーメントされている人が少なくない。「法律というのは、縛られて死ぬためにあるんじゃない。人が幸せになるためにある」――。登場人物のこんなセリフに、私も原点に立ち返る思いがする。

2011年、司法修習中に東日本大震災と福島原発事故が起きる。弁護士登録後、繰り返し足を運んだ福島県・浜通りの被害は、地域コミュニティという「ふるさと」そのものの喪失だった。国と東電の責任を追及し、賠償させ地域を取り戻す――。この事件にとりくむことは、事故の年に弁護士になった者の責任だと考えた。

私もまだ奨学金の返済を継続

過労死事件も担当した。証拠保全手続きで押さえたタイムカードをみると、朝7時、8時から働き、終業は25時、26時、……28時という日まで。どんな思いだったか。家族は、亡くなった本人の労働実態を詳しくは知らない。「私があのとき休んでいいよと声をかけていれば、死なずにすんだかもしれない」と、自らを責めて苦しむ――。こんなに悲しいことはない。

いずれも、根底には政治がある。原発に固執する政治、過労死を強いる働かせ方を許容する政治、個人の尊厳より経済的利益が優先される。一人の被害者を救済し、一つの裁判で勝つと同時に、「人が幸せになるために」、政治を変える必要を感じてきた。その際指標となるべきは、憲法が保障する人権であることも、痛感していた。

2014年、安倍政権が集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を強行し、15年は安保法制=戦争法に反対する国民の怒りが連日国会を取り囲んだ。歴代政権の憲法解釈を180度変更し、国民の声に耳を貸さない、この政治をこのままにはできないという思いを多くの人と共有した。そうしたなか、翌年の参院選へ立候補の打診があり、迷った末に受けようと決意した。戦争する国への体制整備が、憲法まで変えようとしていることへの憤りがあった。

「憲法が、希望。」――2022年、二度目の参院選で掲げた言葉には、憲法をいかした政治にこそ希望があるという思いを込めた。

物価高騰でくらしと経済が困難にあえぐなか、憲法どおりの権利保障はされていない。

最低賃金が今年、仮に50円アップしても東京で時給1163円。フルタイムで働いて、手取りはようやく15万円超。憲法は、単に仕事があって給料が入ればよしとしているのではない。人間らしく働き、生きる権利を保障している。中小企業を支援し最低賃金を大幅に引き上げる、政治の責任による抜本的な賃上げが必要だ。大企業が蓄積しすぎた内部留保に時限的に課税し、財源を生み出す。

大学の高い学費と借金となる奨学金が、若い世代を苦しめている。私もまだ奨学金の返済を続けている。40代までかかる借金返済を18歳で決めるのは異常ではないか。憲法が保障する学ぶ権利、学問の自由を本当のものとするには、せめてお金の心配なく学べる環境を整えるべきだ。学費を半額に、入学金は廃止に、奨学金はまず75万人に給付型を創設――。毎年2兆円でできる。大企業や富裕層の優遇税制、歳出改革で十分捻出できる。

医療、介護、年金――社会保障費は常に削減対象とされ、負担増と給付減が続けられてきた。もはや限界を超えている。社会保障を充実させ、誰もが人間らしく生きる権利を保障すべきだ。それは個々人が使えるお金を増やすことになり、地域から経済の好循環を下支えすることになる。ボトムアップの経済政策である。

しかし、子育てや福祉の充実は総額を抑制された社会保障費の枠内でしかなされず、社会保障以外の歳出改革はすべて軍拡予算に回される。どちらも足りないので増税・負担増だという。大軍拡がくらしの予算を圧迫していることは、いまや誰にも否定できないであろう。この大軍拡の政治こそ、憲法に真っ向から反している。

憲法9条の下で、自衛隊は「必要最小限度の実力」とされ、「専守防衛」といい、軍事大国にならない、攻撃的兵器はもたない、集団的自衛権は行使しない――。政府は曲がりなりにも「憲法に基づく平和国家」を説明してきた。ことごとく壊してきたのが、第二次安倍政権以降の12年間である。通常国会で印象的なやりとりがあった。敵基地攻撃能力の保有をはじめ歯止めのない軍拡の憲法との整合性はどこにあるのか。岸田首相の答弁は、「憲法の範囲内」を繰り返す。運用上の規範を聞かれれば、「自衛隊の最高指揮官は日本国の総理大臣であります。……憲法の範囲内で平和国家としての構えのなかでしっかり対応」などといい、「私の指示の下で動くのだから憲法の範囲内なのだ」と言わんばかり。もはや憲法論が崩れている。

好きな条文は「憲法12条」

4月の日米首脳会談では、「作戦及び能力のシームレスな統合」と称し、日米の指揮・統制機能の連携強化をいっそう進めることを確認した。情報、装備において圧倒的な米軍の下では、事実上自衛隊は米軍の指揮下に置かれ、文字通り一体化する。7月には拡大抑止の初めての閣僚会合を行い、米軍の「核の傘」=核兵器を含む抑止力強化を強調する。

しかし、力対力の対抗の先に平和への展望はない。果てしないエスカレーションでリスクばかりを高める。日本とアジアの平和のためには、米国による対中包囲網でブロック的な対抗を強めるのではなく、対話と協力の包摂的な枠組みで外交努力を強めるべきである。

政府は、外交と言えば「日米同盟が基軸」といい、その枠でしか物事を見ない。一方アジア地域では、ASEANのように軍事同盟ではない関係で平和と安定、発展をめざそうとする努力がある。そろそろ見方を改めるべきではないか。

だいたいその日米同盟の下で何が起きているか。沖縄の米兵による性暴力事件ではなかったか。事件の発生も米兵の起訴も、日本政府は半年にわたり隠してきた。97年の日米合同委員会合意で、米軍は事件・事故の通報義務を負い、日本政府にも現地防衛局にも速やかに伝えられるはずだった。ところが反故にされ、にもかかわらず上川外務大臣はそのことを「問題があるとは考えていない」と開き直っている。いったいどこの国の政府か。少女の尊厳を守れず、憲法が保障する人権より日米同盟が優先する異常をそのままに、「国民を守る」とはどういうことか――。

憲法で好きな条文はと聞かれれば、12条と答える。「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」――。平和と自由、民主主義のための不断の努力が、いまほど求められるときはない。

※「令和の風雲」は、各政党・会派の最若手の国会議員が筆を競い、「とっておきの持論」を述べる連載企画(不定期)です(編集部)

著者プロフィール

山添拓(やまぞえ たく)

日本共産党政策委員長・39歳

1984年生まれ。京都市出身。東大法学部卒。2011年弁護士登録。16年参院初当選(東京選挙区)。22年再選(2期目)。党常任幹部会委員、政策委員長。趣味は鉄道、山登り、写真撮影、駅そばめぐり。

   

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