インタビュー/くるぞ万博「いくぞ100回!」/世界と出会う「偶然の賜物」/鳥井信吾・大阪商工会議所会頭

2024年9月号 BUSINESS [リーダーに聞く!]

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1953年生まれ。 南カリフォルニア大大学院修了。83年サントリー入社。03年副社長、14年より副会長。関西経済同友会代表幹事、大阪商工会議所副会頭を経て22年3月会頭に就任。サントリー創業者の鳥井信治郎氏は祖父、2代目社長の佐治敬三氏は伯父に当たる。

――開催地の大商会頭と万博協会副会長を兼務する鳥井さんは「海外パビリオン」の建設の遅れを、どうご覧になりますか。

鳥井 心配していません。日本の建設会社は受注した以上、間違いなく完遂してくれます。万博のシンボル「大屋根リング」に登る中学・高校生向け見学ツアーも始まり、世界最大級(円周約2㎞)の木製リングから眺める絶景に歓声が上がり、大商が参画する「大阪ヘルスケアパビリオン」も見学ルートになっています。

「想定来場2800万」は達成可能

――開催まで250日を切り、大阪以外の地域の「関心の低さ」が気になります。

鳥井 先日、千葉県内の大学で1年生約200人に「来年、大阪で万博があるのを知っていますか」と尋ねたら、9割が「はい」と答えた。18歳前後の皆さんの認知度が、これほど高まっているとは驚きました。70年大阪万博当時、私は17歳(高校3年)。東海道新幹線や高速道路が開通し、日本は高度成長の真っただ中。万博会場は、東西冷戦下の米・ソが国威を競い、アポロ12号が持ち返った「月の石」を飾る米国館には4時間待ちの長蛇の行列ができた。父(故・鳥井道夫サントリー名誉会長)と一緒に米・ソ両パビリオンを見比べ、桜の花びらを象った巨大な日本館や世界の人々が集うお祭り広場を歩き回った記憶は、今も鮮明です。えも言われぬ異空間に魅了され、10回近く行きました。それは、人類の未来感溢れる途轍もないお祭りでした。

――05年愛知万博の来場数は2200万人でした。来年の大阪・関西万博の想定来場数は2800万ですが、達成できますか。

鳥井 70年大阪万博は空前の6400万でした。大阪は古代から国内外の玄関口、物資の集散拠点「天下の台所」として栄えてきました。まさに「万博的」に発展してきた都市です。インターネットの時代に「万博は時代遅れ」と言う人もいますが、世界160カ国の人々とリアルに出会える場所は万博しかない。今年1~6月のインバウンドは過去最高の1778万人。来年開幕すれば中台韓やASEANからもたくさんお越しになりますよ。大阪・関西のポテンシャルを考えたら想定を上回る3000万以上のご来場も夢ではないと思います。

――地元・大商としての取り組みは?

鳥井 2年前に「挑戦都市 やってみなはれ! 大阪プラン」を作り、万博が目指す未来社会を先導する諸施策を打ち出しました。目玉の一つは、大阪ヘルスケアパビリオン内に開設する中小・スタートアップ向け展示・出展ゾーン「リボーンチャレンジ」の企画運営です。中小企業が半年も出展し続けるのは負担が重すぎる。そこで6カ月の万博会期を26週に区切り、1週間毎に出展企業・テーマを入れ替えることで中小企業が参加しやすい絶妙の体制を整え、377社の参加が決まりました。これほどたくさんの中小企業が万博パビリオンに出展する例はありません。我が大商も「ウェルネスオフィス」「繊維・ファッション」「町工場」などのテーマで出展企業を募り、介護現場に役立てる「空中に浮く靴」やどんな道でも安心・安全に走れる「スーパー車椅子」、「光合成する服」「月面探索電動バイク」「空飛ぶトラック飛行船」などワクワクするような出展をします。これらの製品・サービスは、まだ完成していません。普段の事業領域を超えた非現実・非日常的な製品・技術・サービスの追求に、中小企業と町工場が一丸となって心血を注ぐ。これがリボーンチャレンジの醍醐味です。

――大商の先導で「大阪まちごと万博共創プラットフォーム」も立ち上げましたね。

鳥井 「夢洲だけが万博じゃない!」をコンセプトに、大阪のまち全体で訪問客をおもてなしするため、万博会場とまちなかを連動させた情報サイト「まちごと万博」を開設し、まちを面白くする人たちを「まちのパビリオン」に見立てて紹介したり、海外認知度を高める英語版を準備し、SNSによる情報発信でムードを盛り上げます。

もう一つの目玉は「くうぞ、万博。」プロジェクトです。万博協会の公式ポスターのキャッチコピー「くるぞ、万博。」をもじった「くうぞ、万博。」を思いついたのは大商の女性部長です。食い倒れの大阪の魅力を押し出し、万博にちなんだオリジナルメニューを考案し、その写真と紹介文(日本語と外国語)を「#くうぞ万博」のハッシュタグを付けて拡散します。まちなかの飲食店をパビリオンに見立てて食べ歩きを楽しんでいただく、大阪らしい「万博を使い倒す」目論見です。ユニークなメニュー50品については、インスタグラムのプロが作ったショートPR動画を公開し、万博のイベントに参加できる特典も検討中です。

大阪湾に沈みゆく真っ赤な夕日

――改めて「万博の意義」を伺いたい。

鳥井 世界各地で悲惨な戦争のニュースが飛び交う時代に「いのち輝く未来社会」をテーマに、平和な国・日本で開かれる万博が発する「多様でありながら、世界はひとつ」というメッセージはかけがえのないものです。思うに、現在、国連が提唱するSDGsの17の目標には、「戦争」と「パンデミック」からいのちを守る行動計画がありません。5年後に新たに採択される「ネクストアジェンダ」に、この2項目を追加する提案を160カ国が集う万博会場から発信することはできないものか。いのち輝く平和の祭典の意義が、より鮮明に国際社会に伝わると思います。

さらに大阪・関西万博は、世界が3年間のコロナの閉塞状態から抜け出して、世界の国が一つの場所に集まる「共創」がリアルに体現される場となります。経産省で万博の推進役を務める多田(明弘)前事務次官は、その魅力を「偶然の出会い」の可能性が無限に存在する「セレンディピティ(偶然の賜物)」と仰っていたが、半世紀前の私の原体験からも、まさにそうした偶然の出会いの場になることを期待しています。

――何度ぐらい万博に行きたいですか。

鳥井 100回行きたいと思っています。

――開催中は本業そっちのけですか。

鳥井 自宅から遠くはありませんから、何とかなるでしょう。とにかく見たいもの食べたいものがあり過ぎます。くるぞ万博、いくぞ100回の気合です。

――「月の石」のように見たいものは?

鳥井 26テーマのリボーンチャレンジは全部行きます。バチカン美術館の至宝、カラヴァッジョの傑作『キリストの埋葬』も観たいなあ。そして、何より大屋根リングのスカイウォーク(高さ20m)から沈みゆく夕日を見たいと思います。古来、この地では聖徳太子が創建した四天王寺の西門周辺から西方浄土を願って大阪湾に沈む夕日を見詰める「日想観」の修行が盛んでしたが、今はビルしか見えません。四方を海に囲まれた万博会場のシンボル・大屋根リングから眺める絶景、中でも海に沈みゆく真っ赤な夕日が、私のイチ押しです。

■ インタビュアー/本誌編集長 宮嶋巌

   

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