2024年6月号
BUSINESS
by 百瀬裕規(ベインキャピタル日本法人会長 元野村證券専務)
『わが投資術-市場は誰に微笑むか』
私は清原さんと同じ野村證券出身、4年後輩に当たる。直接話したことはないが、伝説の投資家としてよく知っていた。
彼は投資家として大成功を収め、2023年夏に引退し、筆を執った。とはいえ、成功者が都合の悪いところを覆い隠した自画自賛本ではない。40年に及ぶ投資家人生の成功も失敗も、全てを曝け出した作品だ。将来の投資家の役に立たんと使命感に駆られているかのようだ。新NISAが始まり、日経平均が史上最高値を更新する中で勃興して来る株式投資家に、自分の全てを伝授しようという、「遺言」のような迫力を持った稀有の一冊だ。
世の中には証券会社出身なら株式のプロだと誤解している人が多い。かくいう私も証券会社に34年間在籍したが、全くプロではない。「株式は適当に良いと思う銘柄を買って保有していれば、最初は下がってもいつかは上がる。なかなか上がらなかったら上がるまで待てばよい」というスタンスだった。それでも少しは儲かったものだが、大きな成功を収めることはできなかった。
ところが、証券会社には極めて少数の、とんでもない株式投資の達人がいた。彼らは独自の投資哲学を持っているが、それは理解不能な難しいものではなく、シンプルなものであろうと肌で感じていた。しかしながら、私にはそれが何かはわからず、ただの幸運な人たちと位置づけていた。
株式投資の成功者の代表的な存在が清原さんだ。05年の長者番付全国トップになったのは周知のことだが、ファンドが浮沈を繰り返す中で殆ど全ての個人資産を自分のファンドに注ぎ込み、最終的に彼の個人資産は800億円を超えた。彼の投資哲学をかねてから学びたいと思っていたが、この一冊を読んで、その真髄に触れることができた。
予想通り、彼の哲学は実にシンプルだ。彼のバイブルは究極的には四季報オンラインとFACTAというところが、その証左だ。そして、その哲学の論理的根拠をわかりやすく数学的にも説明してくれて、なるほどと唸らせる。
株式投資は買う銘柄選択も大事だが、売却はそれ以上に大切だ。しかし、売却のタイミングは清原さんをもってしても難しい。どういう決断をして成功したか、どういう決断をして失敗し、窮地に立たされ、それをどう乗り越えてきたか――。実例を挙げ、自らのtrue storyを赤裸々に綴り、決してやってはいけないことも教えてくれる。
私は早速、時価総額500億円以下、PER10倍以下、PBR1倍未満、ネットキャッシュ(現金同等物―有利子負債がプラス)の条件を満たす上場会社のスクリーニングを行った。今後はこの銘柄群をウォッチしながら、清原さんが買いたいと思う銘柄を探すことを楽しみにしたい。
これから株式投資を始める人、今、投資をしている人の双方に大きな示唆があるはずだ。是非、読まれることをお勧めする。