社会貢献活動50周年! 三菱商事の「サンゴ礁保全プロジェクト」

サンゴの不思議な生態が伝える、共生の大切さ。夏休みの体験型ワークショップを科博で開催した。

2023年12月号 INFORMATION

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8月9日に国立科学博物館で行われたサンゴを学ぶワークショップ

「山椒は小粒でもぴりりと辛い」という。サンゴ礁は地球表面のわずか0・1%だが、多様な生物が共存する場となり、波の威力を緩和して防災になるなど、その役割は大きい。ところが、サンゴは減少、絶滅の危機に瀕している。保護の取り組みに期待が高まる。

「サンゴ礁は漁場としての機能が重要で、多様な魚類がサンゴ海域に生息します」

こう話すのは水産庁漁港漁場整備部の担当者。サンゴ礁海域の魚類を多く獲る沖縄県の漁獲量は年々減少し、サンゴの減少が漁獲量の落ち込みにつながっているのではと懸念されている。日本のサンゴ礁は、琉球列島と小笠原諸島に多く分布し、房総半島や伊豆半島などにも生息する。

水産庁によると、これまで確認されたサンゴ礁に生息する生物種は9万種を超え、人の生活ともかかわりが深い。サンゴ礁は魚、エビ、カニ、貝、海藻などの産卵や子育ての場にもなっている。ところが、世界のサンゴ礁の58%が潜在的に海洋汚染や沿岸開発、森林伐採による表土の流出など、人間活動に脅かされているという。

サンゴ礁とは、造礁サンゴや有孔虫、石灰藻などの石灰質の遺骸が長年、積み重なってできた「地形」のことをいう。日本では陸地を取り囲むように、海岸に接して発達していることが多い。

サンゴの白化現象の解明に尽力

白化したサンゴ

最近はサンゴの白化が大きな問題になっている。サンゴの骨格が透けて白く見える現象で、この状態が長く続くと死滅するとされる。1995年以降に大規模な白化現象が急増しており、温暖化による水温上昇が原因ではと考えられてきた。さらに台風の巨大化による破壊や、二酸化炭素の増加による海水の酸性化、赤土の流入などもサンゴの脅威とみられている。

三菱商事は05年度に「サンゴ礁保全プロジェクト」をスタート。白化の原因を解明してサンゴを回復させ、サンゴ礁の豊かな海を守ることを目的とし、現在、沖縄と豪州でサンゴ礁保全活動に取り組んでいる。沖縄では、サンゴの白化現象の解明に尽力してきた静岡大学・創造科学技術大学院の鈴木款(よしみ)特任教授の活動を強力にサポート。経済的支援に加えて、過去にはボランティアを社内外から募り、調査研究の活動に参加することで環境問題への理解を深めるプログラムも行ってきた。

静岡大学・創造科学技術大学院の鈴木款特任教授

鈴木特任教授は、白化が水温の上昇や紫外線、バクテリアの増加によりサンゴ内部で起きていることを明らかにした研究成果により、12年に国際サンゴ礁学会から最優秀論文賞を受賞するなど、世界的に高い評価を受ける第一人者である。11年度には、オーストラリア海洋科学研究所のデイビッド・ボーン博士をプロジェクトリーダーに、オーストラリアのグレートバリアリーフで、サンゴを死滅させる「黒帯病」の調査研究に着手した。

今年8月には、三菱商事の主催で、サンゴ礁への理解を深め環境保全への取り組みを学ぶワークショップ「サンゴ礁の不思議を知ろう ~海の生物社会と命の仕組みを探る旅~」を国立科学博物館で開催し、小学4~6年生30人ほどが参加した。講師は、鈴木特任教授など、沖縄で保全活動をする研究者たちだ。

サンゴから学ぶ生き物の「共生」

沖縄で行われるサンゴの調査研究活動

小学生たちは、サンゴが水中のプランクトンを捕まえて食べている、との静岡大学カサレト特任教授からの説明に熱心に聞き入り、実際にエサを与えてサンゴの触手が動いているところを顕微鏡で観察した。さまざまな色や形のサンゴに光をあてて、日焼け止めのような働きによって、サンゴの色が変わる様子を観察した。顕微鏡で、サンゴの体内に褐虫藻という生き物が住んでいて、助け合いながら共生していることも学んでいた。

サンゴの不思議な生態に子どもたちは興味津々。「サンゴの種類をもっと知りたくなった」(小学5年生)「はじめて見るものばかりで、楽しかったです」(小学6年生)と、感想を語った。ワークショップの最後に鈴木特任教授は「私たちは多様な生き物と補い合いながら共生している。そのことをサンゴから学んでもらえたら」と話した。

世界各地で事業展開する三菱商事は、社会の一員という責任を強く意識し、多岐にわたる社会貢献活動に積極的に取り組んでいる。事業を存続するため、社会的経費を負担するのは当然との考え方に立っている。社是とするのが「三綱領」と呼ぶもので、所期奉公、処事光明、立業貿易という精神を受け継いでいる。こうした精神のもと、三菱商事は73年に社会環境室を設立し、今年は50周年の節目を迎えた。

サンゴ礁の保全など、地球環境の問題解決にも早くから取り組み、19年からは、障がいなどの有無にかかわらず誰もが生き生き活躍できる「インクルーシブ社会の実現」、「次世代の育成・自立」、「環境の保全」のほか、「災害支援」の活動を展開する。求められる社会貢献活動は時代とともに変化し、社会の動きを敏感に感じながら、三菱商事はさまざまな取り組みを進めている。

(取材・構成/浅井 秀樹)

   

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