この調子だと「何も知らないから責任の取りようがない」と嘯く櫻田に「お墨付き」を与える最終報告書になりかねない。
2023年12月号
BUSINESS
by 本誌金融取材班
櫻田謙悟グループCEO(写真/堀田喬)
遂に本丸に追及の手が及んだ――。中古車販売大手ビッグモーター(東京)による自動車保険の保険金不正請求問題を巡り、金融庁が損保ジャパンの親会社SOMPOホールディングス(SHD)に立ち入りを開始した。狙いは、11年にわたり「ドン」として君臨する櫻田謙悟(67)のクビに他ならない。
金融庁内には元々、櫻田を嫌う官僚が少なくなかった。関係者がぶちまける。
「規制産業なのに『脱・保険会社』を標榜して聞く耳をもたない。経済同友会の代表幹事になるとその傾向は強まった。万年3番手の損保会社なのに役員報酬は断トツだ」
ここに来て損保ジャパン社内にも「アンチ櫻田」の動きが出ている――。
「みな面従腹背。櫻田に忠誠を誓う人間がいると思えない」と、憤り交じりで漏らす幹部もいるほどだ。
混迷の中にあって、まるで櫻田氏を擁護するかのように見えるのが自前の社外調査委員会(委員長・山口幹生弁護士)だ。SHDは調査委発足に当たり「客観性、透明性、独立性の観点から第三者である社外の有識者からなる」と説明したが、10月10日に公表された中間報告書を読んだ法曹関係者はあっけにとられた。
そもそも削除されたメールを復元する「フォレンジック」の有無や、ヒアリングの実施回数など、調査手法の説明が一切ない。内容も、既に報道された事実ばかり。その割に損保ジャパンの白川儀一社長(53)については「想像力が決定的に乏しかった」「正常性バイアスがあった」と舌鋒鋭く断罪する。まるで彼一人に責任を押しつけるような筋立てだ。
櫻田氏は9月の記者会見で社外調査委が調査中と言い募り、自身の責任は「私から申し上げられない」と逃げ回った。調査委は今後、SHDも調べるというが、この調子だと「何も知らないから責任の取りようがない」と嘯く櫻田に「お墨付き」を与える最終報告になりかねない。
その懸念が今、にわかに現実味を帯びる。関係者の間で聞き捨てならない噂が飛び交っているからだ。「調査委のメンバーと櫻田氏が『密会』した。しかも、調査委が聴き取りのために呼び出したのではなく、櫻田氏が呼びつけた」(関係者)というのだ。調査の最中に調査対象と密会すれば調査内容を含め何らかの「お願い」があったとしても不思議ではない。もし仮に「密会」が事実だとすれば客観性・透明性に重大な疑問符がつく。
そこで編集部はSHDに質問状を出し、事実関係を尋ねた。同社は「密会疑惑」について「個別の内容についてはお答えを差し控える」と答え、事実か否か明言を避けた。一方、「調査委員会の目的を達成するために必要な範囲で、同委員会の客観性、透明性、独立性の観点に留意しつつ、当社は同委員会と必要なやりとりを適時適切に行っている」とも回答した。「あり得ない」と否定すれば済むものを、後に密会の事実が発覚しても言い逃れができるよう「否定しなかった」ということだろう。
SHDは調査委について、日弁連の「第三者委員会ガイドライン」に準拠した「第三者委員会」ではないと認める。同ガイドラインは「不祥事が大々的に報じられたり、具体的なダメージが生じてしまった企業等では、第三者委員会を設けることが不可避となりつつある」と指摘している。それにもかかわらず、SHDはあえて第三者委員会の形式を取らずに今の調査委のあり方を選んだ。会社側の意向を汲んだ「お手盛り調査委」の疑いが晴れない。
こんな組織は即刻廃止して、厳密な客観性と独立性を担保した第三者委員会を今からでも立ち上げるべきだ。そうせずに調査委の客観性と独立性を主張したいなら、これまでの調査手法・範囲と密会疑惑について明確に説明すべきだ。
(敬称略)