2023年11月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
日本の国道の起点である日本橋から徒歩で10分ほどの所に「日本橋ふくしま館 MIDETTE(ミデッテ)」がある。福島県産の水産物や農産物、菓子類などを販売するとともに観光案内所の役割もある。10月初旬に訪れた。飲食コーナーで福島県産の魚の煮汁を椀にもったつけ麺を食べた。900円。キンメダイの干物、なめこ、天日干しの梅干しなど産品も購入、〆て計約3500円。
東京電力福島第1原子力発電所(1F)の構内の1000基以上にも及ぶタンクに溜まった汚染水をALPS(多核種除去装置)で核物質を取り除き、水から分離できないトリチウムを主体とする処理水を東電が海洋放出したのは、9月11日。
IAEA(国際原子力機関)はすでに1Fの処理水の海洋放出について安全性を確認している。中国は執拗に海洋汚染を外交的に抗議の姿勢を崩さない。
「外交は内政の反映である」といわれる。東洋史家の東京外語大学名誉教授である故岡田英弘氏は中国の独特の批判手法が、対日批判に反映しているとする。「指桑罵槐(しそうばかい)」である。桑の木を指さして実は遠回しに槐(えんじゅ)の木をなじる。中国人民を「桑」の日本に向かわせて、「槐」の権力機構の批判のガス抜きにする。
習近平主席体制はいま、深刻な経済危機に直面している。新型コロナウイルスによる都市閉鎖に人民が白い紙を手にして抗議の波が広がったとき、都市封鎖の解除にたちまち追い込まれた。中国の王朝の転換は「天命」によってもたらされる。白い紙の波は中国共産党王朝の「槐」にとっては恐怖だったろう。
経済産業省によると、海外の原発が海洋放出しているトリチウムは、1Fの想定される最大放出量が22兆ベクレル、中国の福清原発は52兆ベクレル(202 0年)。岡田英弘氏の著作のタイトルにならえば、『この厄介な国、中国』(01年)なのである。
(河舟遊)