業界首位の日本M&Aセンターは、年初来高値の1787円から6割以上も値を下げる有り様。
2023年9月号 BUSINESS
日本M&Aセンターの三宅卓社長
この数年で急激に売り上げを伸ばし、上場企業の年収ランキングでもトップ10入りの常連だったM&A大手仲介会社。業界再編のうねりや全国企業の後継者不在率が6割近くに上ることなどから、今後もM&Aニーズは底堅いと思われてきたが、その業績に急ブレーキがかかっている。7月28日の大引け後に揃って四半期決算を発表した大手3社の業績は、いずれも大幅な減益や予想を大きく下回る利益水準で着地。ネガティブサプライズとなった株式市場では3社の株価が年初来安値を連日更新し、株価のローソク足は「ナイアガラの滝」のような有り様だ。
業界首位の日本M&Aセンターホールディングスは、7月28日に発表した2024年3月期第1四半期の連結経常利益が前年同期比54.2%減の16億円と大きく落ち込み、連結当期利益も同59.2%減の9億円に沈んだ。売上営業利益率は前年同期の39.8%から20.8%へ大幅に悪化しており、通期予想の当期利益110億円に早くも赤信号が灯った。
ライバル2社の業績も低調だ。業界2位のM&Aキャピタルパートナーズは23年9月期第3四半期の連結当期利益が同30.5%減の31億円、連結経常利益が同14.4%減の58億円で、この4-6月期だけでみると3億円しか計上できていない。残り一角を占めるストライクは23年9月期第3四半期決算が増益となったが、利益水準が予想を大きく下回り、通期計画に対する経常利益の進捗率は50%台前半にとどまった。
株式市場で失望売りが広がるなか、最も株価を下げているのが日本M&Aセンターだ。決算発表以降、連日にわたって年初来安値を更新し、7月28日に1113円だった終値は1週間後の8月4日に702円まで下落。暴落率は実に37%に達する。年初来高値の1787円からは6割以上も値を下げている。
大手3社の業績に急ブレーキがかかった要因の一つは、猫も杓子もM&A仲介に参入したことによる競争の激化だ。M&A仲介には業規制がないため、全国の税理士事務所やコンサルティング会社などが続々と参入し、最近では既存事業者の分裂(独立)による参入も急増。さらにはオリックス、マイナビといった異業種からの参入も相次ぎ、まさにカオス状態だ。いまやM&A仲介会社は2500以上に上るといわれ、以前のように仲介手数料を荒稼ぎできなくなっている。
加えて、これまでの「お行儀の悪さ」も成約件数が伸び悩む大きな要因だ。M&Aでは事業の売り手・買い手の双方から仲介手数料を得ることができるため、さほどマッチしない案件でも強引にM&Aを成約させたり、大口顧客である買い手の利益を優先させるため売り手側に不利な条件でも売却を強く働き掛けたりといった「利益相反」が跋扈してきた。日本M&Aセンターで昨年明らかになった不正会計では、高い目標を達成するために83件もの不正事案が営業部門で発覚し、「数字ありき」の姿勢を浮き彫りにした。
こうした経緯から、売り手も買い手もM&A仲介会社を慎重に選ぶようになっており、M&A案件が新規参入組に持ち込まれるようになっている。実際、18年創業のM&A総研ホールディングスは、同じく7月28日に発表した23年9月期第3四半期で売上高や営業利益が前年同期から2倍以上に伸び、営業利益・経常利益・当期利益のすべてでストライクを上回った。経済産業省では、クレームの多さなどから行動指針である中小M&Aガイドラインの見直しに乗り出しており、大手3社の業績はますます視界不良。まさに「驕れる人は久しからず」である。