連載コラム:「某月風紋」

2022年8月号 連載 [コラム:「某月風紋」]

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ロシアによるウクライナ侵攻が始まって5カ月。強大な軍事力を誇るロシアが時に後退を余儀なくされ、ウクライナが善戦する様を見ていると、85年前の日中戦争もこんな感じだったのではないかという気がしてくる。短期間で決着をつけるはずが、結果的に「15年戦争」と呼ばれる泥沼の長期戦になり、日本を「破滅」へ追いやった。

国内で情報統制を敷いて国民に正しい情報を伝えないのは、当時も今も変わらない。欧米から資産凍結や原油禁輸といった経済制裁を受け、国民に我慢と犠牲を強いるのも似ている。ウクライナのゼレンスキー大統領はしきりに武器の供与を求めているが、中国の国民政府もアメリカやソ連に武器の供与を求め、ソ連は提供していた。欧米からの軍事支援が続く限り、戦争は終わらない。

ウクライナ人監督が撮った映画「ドンバス」や「アトランティス」を観ると、この戦争は2014年から続いていることがよくわかる。さしずめ日本にとっての満州事変か。『昭和16年夏の敗戦』(猪瀬直樹著)によれば、若手官僚主体の総力戦研究所は、米英と戦えば「日本必敗」と分析。当時陸相だった東條英機にも報告したが、太平洋戦争を止めることはできなかった。

今のアメリカは、エネルギー産業や軍需産業が潤うから戦争が長引いても困らない。太平洋戦争の前、日本の南進を遅らせたかったアメリカはギリギリまで日本に石油を輸出し、戦争の準備が整うや原油禁輸で日本を追い詰め開戦するよう仕向けた。したたかさは相変わらずだから、ロシアと中国、北朝鮮が同盟を結んでも想定内かもしれない。対する日本は、甚大な影響を受けるのに頭の体操すらしていない。

ここまで書いたところで、安倍元首相「銃撃」の報が届いた。戦前も何人もの要人が青年将校らに暗殺され、歴史が変わっていった。世界が平和を取り戻すことを切に願う。

(ガルテナー)

   

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