東京機械株買い占め劇に新事実/アジア開発「新株」が闇に消えた謎/あの中国人投資家が利益か

号外速報(9月30日 15:00)

2021年10月号 BUSINESS [号外速報]
by 高橋篤史(ジャーナリスト)

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東京機械製作所が誇る高精度・高性能輪転機(HPより)

本誌がこれまで2度(今年5月号、同9月号)にわたり在日中国人ネットワークとの関係を報じてきたアジア開発キャピタルで疑惑が持ち上がっている。同社は昨年10月に大規模なエクイティファイナンスを実施したが、引受契約でロックアップ条項などを定めているにもかかわらず、大量の新株や新株予約権がその後、所有者不明の事態となっているのだ。このことは現在進行中の東京機械製作所との攻防戦に少なからぬ影響を及ぼす可能性がある。

破格の条件だった新株・新株予約権の割り当て

慢性的な赤字経営に陥っているアジア開発キャピタルは昨年10月6日、新株と新株予約権の第三者割り当てを行った。資金調達額は新株で20億円、新株予約権では最大18億9900万円が見込めるものだ。発行会社の不振ぶりを反映して発行条件は破格。新株の割当価額は発表日(昨年8月12日)の直前終値の半値以下である1株3円。同様に新株予約権は無償割り当てで、かつ行使額も1株4.5円に設定されたのである。

この好条件を享受したのは2つの割当先だった。1つは以前からアジア開発キャピタルの大株主となってきた香港の金融グループ、サンフンカイの傘下にある「サンフンカイ・ストラテジック・キャピタル」(以下、サンフンカイ社)、もう1つは旧やすらぎ(現カチタス)の創業者で現在は個人投資家業を主とする須田忠雄氏である。全体の約75%はサンフンカイ社への割り当てだった。

破格の条件ということもあり、新株には1年間のロックアップ期間が設けられた。この間、市場売却はできず、相対での譲渡も特段の理由が発行会社の取締役会で承認されない限りできないものだ。それとともに東証の上場規程に基づき2年間の譲渡報告を確約する書面も交わされた。その間、譲渡があれば取引所への報告が必要となるものだ。他方、新株予約権については、発行日から行使が可能ではあるものの、そのものを譲渡するにはやはり取締役会の承認が必要と定められた。これらにより短期間での売り抜けに歯止めがかけられ、透明性も担保されたわけである。ファイナンスでは通例の措置といえる。

ところが、その後の動きは不透明そのものだ。ここで問題とするのはサンフンカイ社への割り当て分に関する不可解な異動の数々である。同社が手にしたのは新株5億株と新株予約権3億1700万株分。破格の条件のためファイナンスによる希薄化はべらぼうな規模で、新株だけでサンフンカイ社の保有割合は一気に4割超に達した。それら膨大な量が1カ月もたたないうちに目まぐるしく所有主体を変え始めたのである。

コールオプションで新株が闇に消えた

昨年11月5日、サンフンカイ社は5億株すべてをいずれも英領バージン諸島に登記された100%子会社2社に取得額と同額で譲渡した。譲渡数は「ドルモン・インターナショナル」(以下、ドルモン社)に3億4173万株、「サウス・アイル・インターナショナル」(以下、サウス社)に1億5827万株である。また同日、新株予約権についても1億6700万株分をサウス社にやはり無償で譲渡している。

これら3社は一体とみなせるし、差額も生じない譲渡だったからまだいいだろう。3社はサンフンカイ社を代表者に共同保有の形で関東財務局に大量保有報告書を提出。発行体であるアジア開発キャピタルも譲渡の詳細について適時開示している。

しかし、その後の大量保有報告書によれば、さらに1カ月後から妙な動きが始まった。12月9日、サンフンカイ社は保有するドルモン社株について「ブライト・アセント」なる所在不明の法人との間でコール・オプション契約を結んだとされる。契約先から請求があれば株を売り渡さなければならない契約だ。同様に、サウス社株についても「チーム・コレクション」なるこれまた正体不明の法人との間で契約が交わされた。

果たせるかな、どうやらコール・オプション契約は行使されたらしい。昨年12月21日提出の大量保有報告書によれば、同月11日付でドルモン社はサンフンカイ社の共同保有者から外れた。同様に、今年2月17日付(提出日は同月22日)でサウス社も外れている。両社の株主が変更されたためとみられる。これら動きはサンフンカイ社から正体不明の法人にアジア開発キャピタル株が実質的に譲渡されたと見るべきものだ。

その時点でドルモン社もサウス社も株券等保有割合は優に5%を超えていたから、本来は別途、大量保有報告書を提出しなければならない。ところが、両社はそれを怠っている。これは金融商品取引法に違反している可能性が高い。

2社はその後も株を保有し続けているのか、そうではないのか?――。割当先であるサンフンカイ社の手を離れた新株と新株予約権は闇に消えたも同然である。これらについてアジア開発キャピタルによる適時開示は行われていない。東証への譲渡報告はそもそも最初からなされてない。

新株予約権は普済堂なる会社に渡っていた

アジア開発キャピタルのHP

一方でそれらの間、アジア開発キャピタルの株価は急騰した。2月25日にはザラ場で33円を記録。これは新株割当額の11倍、新株予約権行使額の7倍超にもあたる。仮にドルモン社やサウス社が売り抜けていたら濡れ手で粟の大儲けとなる水準だ。

実際、サンフンカイ社は手元に残した新株予約権1億5千万株分を大量に行使して売り抜けている。3月2日、同月11日、同月18日に計1億株分を行使、大半を市場で売り抜けた。有価証券報告書によれば、昨年度中、さらに2500万株分が行使されたようだ。もっとも、それらはルールの範囲内なのでとやかく言う筋合いのものではない。

あくまでここでの焦点は、正体不明の2社に実質譲渡され闇に消えたも同然の新株5億株と新株予約権1億6700万株分である。有報によると、新株予約権については今年3月末までに須田氏割り当ての1億500万株分も含め計3億1700万株分が行使されている。となると、8700万株分は前述した闇に消えたも同然のものが行使されたことになる。

その点、アジア開発キャピタルによる4月12日付の任意開示は不可解な内容だ。それによれば、焦点のファイナンスで発行された新株予約権のうち6400万株分は2月24~25日に行使されたが、その主体はサウス社ではなく「普済堂」なる会社。さらに2月26日に行われた2300万株分の行使は江川源氏なる個人によるものとされる。まさに株価が最高潮にあった頃の話だ。合計すると8700万株分だから、前述の数字と合致する。サウス社は自らの利益獲得機会をなぜか普済堂などに譲っていたのである。

さて、残りの新株予約権もその数カ月後に突如、表に現れている。

7月29日、やはり普済堂によって大量保有報告書が提出されている(同月30日付で訂正報告書)。それによれば、同社はその時点でアジア開発キャピタルの株式約4388万株と新株予約権8千万株分を保有しているとされた。現在、アジア開発キャピタルの新株予約権で流通しているのは、これまで詳述してきた昨年10月発行の「第14回新株予約権」だけだ。

その後、普済堂は新株予約権すべてを行使し、8月16日から同月26日にかけ約5千万株を市場で売り抜けたとされる。同社提出の報告書には前後で齟齬があるなど正確な取得額が不明だが、この局面の売り抜けだけで少なくとも2億円程度の売却益を得たことは間違いない。

「許」との表札が掲げられた神宮前の一軒家

では、この普済堂とはいかなる会社なのか。同社の代表取締役は香港出身の女性。今年5月までは東京・神宮前の一般住宅に本店を置いていた。その住宅は2018年4月に「恒潔」なる会社によって取得されたものだ。恒潔の代表取締役も香港出身の女性。関係者によると、その女性は中国出身の投資家、許振東氏と親密な間柄にあり、恒潔は実質的に許氏が経営権を握る会社だという。件の住宅には「許」との表札が掲げられている。

過去2回の記事で詳述しているが、許氏は北京大学傘下の企業集団で幹部だった人物。が、15年に不正行為が摘発され、10年間にわたり市場参加禁止となる重い処分を受けた。その後、日本に入国。本人は決して表に出ないが、「朝陽」や「宣武」(現・徳勝)といった会社を操ってワンアジア証券(現在、アジア開発キャピタルの子会社)の買収などを手掛けてきたとされる。昨年12月、普済堂は保有するグロームホールディングス株をアジア開発キャピタルの子会社に担保として差し入れてもいる。今日の事態を読み解く上で許氏はキーマンと呼ぶべき存在だ。普済堂に取材を申し入れたが、電話口の女性からは「応じられない」との返事のみである。

一方、新株予約権を譲り受けたもう一人の江川氏だが、マスクなどの貿易を手がける「P&C」の代表とみられる。過去、経営が混迷する五洋インテックスに対し資金融通していたことで知られる。江川氏も中国出身だ。

東京機械側も問題視して質問状を送付

この間の9月16日、アジア開発キャピタルは代理人弁護士を通じ本誌に対し「抗議書」を送りつけてきた(アジア開発キャピタルからの「抗議書」)。記事を事実無根とし削除や謝罪を求める内容だ。要求に応じなければ刑事告訴するという。これに対し本誌は9月21日に要求は受け入れられないとの回答をファクスで送信、念のため郵便でも送付した(本誌が送付した「回答書 兼 質問書」)。そこでは回答とともに先述した新株などを巡る不透明な動きに関する質問も記載しているが、1週間以内とした期限までに回答はなかった。

新株も新株予約権も譲渡には取締役会の承認が必要とされているから、最終的に普済堂に流れ着いた一連の譲渡などについても会社側は把握していると考えるのが自然だ。であれば、なぜ定められた情報開示などを行っていないのか。あるいは把握していない可能性もあるが、会社側も知らないところで株が動いていたなら、それはまさに闇である。

不透明な新株などの動きに関しては、株を買い占められている東京機械製作所も問題視しており、9月27日、アジア開発キャピタルに対し質問状を出している。買収防衛策の発動を巡り10月22日に開催される臨時株主総会を目前に控える中、アジア開発キャピタルの買付者としての適格性を左右する事案だけに、真相の究明は待ったなしだ。

10月9日に本文の一部を修正しました。 (編集部より)

著者プロフィール

高橋篤史

ジャーナリスト

   

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