連載コラム:「某月風紋」

2021年10月号 連載 [コラム:「某月風紋」]

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大小さまざま千基以上のタンク群(撮影/宮嶋巌)

「リーダーシップとは、責任のことである。責任をとって辞めるというほうの責任ではなく、責任を持って何事かを実現するというほうの責任である」

政治学者の北岡伸一さんは、経営学者の野中郁次郎さんとの対談集『知徳国家のリーダーシップ』のなかで、責任を定義する。さらに、トルーマン・米大統領が執務室に掲げた言葉を引く。「The buck stops here!」。最終的に私が責任を取る、意である。

福島第1原子力発電所(1F)のいわゆる「処理水」の海洋放出の政府の方針と東京電力の計画が8月下旬に発表された。

1Fの敷地内から流れ出る汚染水から放射性物質を取り除く多核種除去設備が稼働を開始した13年3月以来、8年余り。処理水を貯めたタンクは1千基にも及び、廃炉に向けた施設を建設する用地を確保するためには、タンク群の撤去が必要だ。

焦点は、水の形で存在しているので、処理しきれないトリチウム。放射線は弱く、体内に入っても排出される。東京電力の計画によると、タンクの処理水を二次処理したうえで、希釈する。世界保健機関(WHO)の基準の3ケタ下の水準になる見通しもある。さらに、海底に1キロのトンネルを掘削して、外洋に放出する。「風評被害」が起きた場合、東電は全国の漁業者を対象にする、賠償を検討している。

1Fのメルトダウンによって、東電が支払った賠償金は、7月末で計10兆685億円。原子力損害賠償紛争審査会が13年秋に公表した、帰還困難区域の住民に支払った金額は4人世帯で9千万円、単身世帯で4510万円。道路ひとつをはさんだだけで、区域の認定がなされない事例もあって、地域は精神的に分断された。

処理水問題における「The buck stops here!」の政治家はいるのか。この反対が「pass the buck」だと、北岡さんは語る。「責任転嫁する」「盥(たらい)回しにする」意である。

(河舟遊)

   

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