コロナ禍で支援金や給付金の支給業務を請け負って業績を立て直したが、評判はさんざん。かなりな人望のなさのなせる技だ。
2021年10月号 BUSINESS
社内求心力が低下する永田高士CEO(デロイトトーマツHPより)
「不備ループ」。コロナ禍で打撃を受けた中小事業者向けの一時支援金を巡り、給付を申請しても書類不備の連絡が何度も来て、すぐに支援金を受け取れないことに対する批判を示す言葉だ。
この問題が今年7月15日に参院内閣委員会で取り上げられ、過剰審査で事実上支給が止まっているのではないかと指摘された。いま、その不満の矛先が一時支援金の事務局を務める大手監査法人系のデロイトトーマツグループに向かっている。
一時支援金については経済産業省が今年1月、事務事業者の入札を実施、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー(DTFA)だけが応札して落札した。デジタル技術の活用などで迅速に給付することが第一に求められていたのに、対応が遅いと批判されているのだ。
DTFAは2020年度2次補正予算の際に実施された持続化給付金でも事務局を受注。この経緯はいわくつきで、一次補正予算で受注した電通系の「サービスデザイン推進協議会」と同省の癒着が大きな社会問題となり、DTFAに変更になった。
しかし、同社が担当した後に若手キャリア官僚による不正受給事件が発覚。これを受けて審査の甘さを問う声も出ていたため、一時支援金では過剰反応しているのだ。
度重なる緊急事態宣言の延長で中小事業者である飲食店などは資金繰りに追われているのに、危機の時に補助金が届かないのでは意味がない。一方、DTFAは2度の政府事業の受注で懐は潤う。
実はグループを束ねるデロイトトーマツ合同会社は一時業績が落ち込んだが、この政府事業の受注によって盛り返した。
同社幹部が打ち明ける。「18年から人事や戦略面でシンガポールに本拠を置くアジア統括会社の影響を受けるようになったが、その統括会社に中国共産党の幹部がいることが日本政府にばれて、防衛省から出入り禁止処分を受けるなど政府系の受注が激減し、社員の大量退社が続いた」
苦境を打開したのが、合同会社CEO(最高経営責任者)の永田高士氏だ。公認会計士出身、業界では原子力発電の会計処理に詳しいと言われ、資源エネルギー庁に人脈がある。先の幹部は「永田CEOは『俺が今井尚哉首相秘書官(当時)に頼んで出入り禁止を解いてもらった』と吹聴している」と説明する。
ところが、会社の窮地を救った経営トップとして高い評価を受けていいはずの永田氏の社内求心力は低下する一方で、批判的な声も強まっているという。
まずはDTFAの幹部がこう明かす。「持続化給付金も一時支援金も膨大な事務作業をこなすだけで、派遣社員がやるような仕事。コンサルティングの仕事がしたいと思って入った若手が『私は人材派遣会社に入社したのではない』と不満を漏らして退社している」
別の幹部は「永田氏は来年退任する予定で、後任に自分の秘書的存在である副CEOの永田伸之氏を据えようと画策していることに不満が高まっている」と言う。
高士氏は人望がないうえ、数億円とされる自分の巨額報酬の維持ばかりに拘ってきた。さらに四大監査法人のトップにしては珍しく英語ができない。外国人との会議や海外出張には英語が流暢な伸之氏が同席する。伸之氏は霞が関のキャリア官僚から外資系企業を経て現在の地位にあるが、デロイトでは実績がほとんどないばかりか、「人の褌で相撲を取る名人」と社内で揶揄されている。
「ガバナンスを指導する立場にある会社がトップ選びのガバナンスで綻び始めた」と社内の若手から指摘される始末だ。