「第2のニセコ」富良野に投資妙味

初の外資系高級ホテルコンドミニアムが完売。溢れる海外投資マネーと西武グループの業績が鍵。

2021年3月号 BUSINESS
by 高橋克英(マリブジャパン代表取締役)

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コロナ禍の最中、北海道は、スキーシーズン真っただ中でもある。世界的なリゾート地となったニセコでは、外資系最高級ホテル「パークハイアットニセコHANAZONO」に続き、昨年末には「東山ニセコビレッジ、リッツ・カールトン・リザーブ」が開業した。足元のインバウンドはゼロながら、世界的な金融緩和の影響もあり、この先もアマンやカペラといった外資系最高級ホテルの開発計画が進んでおり、不動産投資も続いている。

一方で、ニセコがブランド化し、不動産価格が上昇したことで割高となり、「第2のニセコ」を探す動きが道内で活発化している。例えば、加森観光は昨年12月、ルスツ初の高級ホテルコンドミニアム「ザ・ヴェール・ルスツ」を開業した。最も高い部屋は5億7千万円もするが、全160室のうち、既に約6割が国内外の富裕層に販売済という。ルスツ以外にもタイ資本のキロロリゾート、星野リゾートやクラブメッドがあるトマムもあるが、「第2のニセコ」の筆頭候補はなんといっても富良野だ。

土地相場が3年で4倍

北海道の真ん中に位置する富良野スキー場(富良野市)は、ニセコから車で約3時間。最寄りの旭川空港からは、車で約1時間だ。FISワールドカップも開催される同スキー場は、西武ホールディングス(後藤高志 代表取締役)傘下のプリンスホテルが運営している。北の峰ゾーンには、三角屋根が特徴の富良野プリンスホテル(現在休業中)をはじめ、ホテルやペンションなどが立ち並ぶ。富良野ゾーンには、客室数407室を誇る新富良野プリンスホテル、幻想的な店が並ぶニングルテラス、テレビドラマ「北の国から」をテーマにした富良野・ドラマ館などがある。

ラベンダー畑から降り注ぐアロマシャワー

富良野の魅力は、スキーシーズンだけではない。むしろグリーンシーズンがメインだ。ラベンダー畑で有名なファーム富田(中富良野町)では、SNS映えを求めインバウンドも多く、中国では日本を代表する観光地の一つとされるぐらいだ。

夏にラベンダーに癒されたインバウンドが、冬には、スキーやスノーボードを目当てに滞在するといった動きもあり、富良野市の外国人延べ宿泊客数は、コロナ前ながら2019年度で約15.4万人と、過去10年で4.2倍にまで増加していた。

こうした状況下、ニセコへの不動産投資でキャピタルゲインを得ることに成功し、味を占めたアジアの海外富裕層が中心となって、パウダースノーを持ち、グリーンシーズンも集客力がある富良野において、高利回りを見込める中古物件や、新規の開発物件へ投資しているのだ。

最大のポイントは、ニセコと比べた土地の安さだ。富良野スキー場の中心地である北の峰地区の土地価格相場は過去3年で4倍ほど上昇したものの、基準地価では、ニセコの中心地であるひらふ地区の約3分の1の価格帯だったりする。割安な土地に投資することは、不動産投資の基本であり、スキーリゾート地であっても同じだ。

昨年12月に開業した「フェニックス富良野」

富良野初の外資系高級ホテルコンドミニアムとして昨年12月に開業した「フェニックス富良野」は、北の峰ゴンドラの目の前にあり、スキーイン・スキーアウトが可能だ。最も高い部屋で2億円を超えるが、ニセコやルスツの5億円超の高額物件に比べれば割安ともいえ、華僑を中心とした海外富裕層に既に全戸完売だという。コロナ禍のなかでも、世界的な金融緩和により溢れるマネーが富良野にまで及んでいるのだ。

もっとも、富良野が、ニセコのように、この先、外資系最高級ホテルや高級コンドミニアムが乱立するかといえば、同じようにはならないとの声もある。

それは、西武グループの存在だ。西武グループは、ニセコでは2006年に、プリンスホテル(現ヒルトンニセコビレッジ)やスキー場を売却し撤退しているが、富良野は、経営再建下にあった当時においても、稼ぎ頭として売却することなく保持してきた虎の子のスキー場である。スキー場の保有・運営だけでなく、旗艦ホテルとして、富良野プリンスホテルと新富良野プリンスホテルを有するため、外資系など西武グループ以外の参入・開発余地は少なく、北の峰のペンションや民家が集積するエリアなど、スキー場から少し離れたエリアになってしまうのだ。

しかしながら、西武グループが、富良野に経営資源を継続して投入しているかというとそうでもない印象だ。富良野プリンスは1974年、新富良野プリンスホテルは1988年の開業で、施設自体の老朽化も進む。2001年に富良野ゴルフコースを開設、2018年に新富良野プリンスホテルに新レストランをオープンするなど手は打っているが、ホテルの大規模改修も想定されるなか、長期的なビジョンは示されていない。

売却すれば千載一遇

プリンスホテルの戦略でみれば、2大主要拠点といえる品川・高輪エリアと軽井沢エリア、海外での投資開発、次世代型宿泊特化型ホテルの展開などに比べ、富良野の優先順位はそこまで高くはない。西武グループは、富良野だけでなく、本州でも、苗場、志賀高原、万座といった国内屈指のブランド力あるスキーリゾートを展開しており、ニセコや白馬同様、世界リゾートたる資格を有するものの、緊急事態宣言の延期もあり、これらプリンスホテルの多くは休業中又は実質休業状態である。

実際、ホテル・レジャー事業の不振が響き、持ち株会社である西武ホールディングスでは、630億円の最終赤字予想である(2021年3月末)。仮に、この先もコロナ禍が長引き業績悪化が続けば、かつてのニセコと同様に、西武グループが、富良野のプリンスホテルやスキー場を売却するシナリオもゼロではなかろう。片や、それは外資系開発会社や海外ファンドからみれば、千載一遇のチャンス到来である。無論、高値で売却出来れば西武グループにとっても悪い話ではない。

地元にもホテルやリフトがリニューアルされ、観光客が増え、雇用や税収が増えれば恩恵ある話だ。結果的に、この先、富良野がニセコのように世界リゾート化し更なる投資を呼び込むチャンスになるかもしれないのだ。いずれにせよ、コロナ禍でヒトの動きは止まっても、カネの動きが止まることはない。

著者プロフィール

高橋克英

マリブジャパン代表取締役

近著 「なぜニセコだけが世界リゾートになったのか」(講談社+α新書)が話題に

   

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