商工組合中央金庫社長 関根正裕氏に聞く!(聞き手/編集長 宮嶋巌)

未曾有の危機が組織と人を強くする

2021年3月号 BUSINESS [トップに聞く!]

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1957年生まれ。早大政経学部卒。旧第一勧業銀行を経て、旧西武鉄道取締役総合企画本部長として危機対応に当たり、プリンスホテルの経営再建を担う。18年3月27日より現職。

――新型コロナの感染拡大で中小企業の経営が悪化し、政府系金融機関が命綱になりました。

関根 昨年3月19日に政府の緊急対策に即応し「危機対応融資」を開始しました。今年1月までに4万6千件の相談を受け付け、融資実行件数が3万件を超えました。ピーク時(昨年4月)の相談件数は1日800件を超え、都心の支店は経験がない数の相談を受けてパニック状態でした。直ちに相談センター、コールセンターを立ち上げ、本店から支店へ約100人を送り込み、懇切、丁寧、迅速な資金繰り支援に全力を挙げました。

――御社は17年に危機対応融資を巡る組織的不正が発覚。その翌年、関根さんは経営再建を託され、社長に就任しました。

関根 同じ過ちは二度と起こしません。要件に合致した融資か否か、本部で全件確認しています。当社は、昭和恐慌の後(昭和11年)に中小企業の「セーフティネット」として設立された経緯があり、その原点に回帰し、本来の役割を発揮したことで、多くのお客様から大変感謝されたことは、感無量でした。

仮にコロナが収束しても「コロナ前には戻らない」という、ニューノーマル(新業態)によって生活様式や働き方、産業構造そのものが変化し、社会の意識や考え方すべてが大きく変わりました。コロナ禍で痛感したことは、未曾有の危機が組織と人を強くするということです。

――緊急事態が延長されました。中小企業の資金繰りは?

関根 危機対応融資の相談件数は落ち着いています。政府の追加支援策により、資金供給はほぼ行きわたり、例年に比べ倒産件数も多くありません。

――御社の自己査定によれば要注意先残高が前期末より1.5兆円増え、要注意先比率が27%から40%に増加しています。

関根 今は資金繰り支援が最優先ですが、無利子融資といえども期限が来たら返さなければならない。いずれは、かつてのバブル崩壊後の過剰債務問題と向き合うことになる、それは世界全体を覆う問題でもあります。

そもそも資金繰り支援だけでは、経営課題を抱えたお客様のお役に立つという点では不十分です。格付けや担保に頼らない事業性評価により、中小企業の実情やニーズを正確に捉え、適切なソリューションを提供したい。当社が培ってきた目利き力を活かし、真にお客様本位の長期的な視点から、企業価値向上に貢献しなければ――。現在、国内101の全支店に社内資格を持つ「経営サポーター」を配置し、経営改善・再生支援・ビジネスマッチング・事業承継などのお手伝いに力を注いでいます。

さらに、未来を拓く戦略プロジェクトとして「イネーブラー(*)事業」を、19年秋から開始しました。これは、当社の特性を活かした高度なソリューション提供と徹底した伴走支援に加え、従来以上のリスクマネーを供給し、地域への波及効果の高い取り組みを具体化するプロジェクトです。実際、「イネーブラーの視座」として「金融慣行の打破」「前例にとらわれない与信や与信手法」「従来の業界水準を超えた運用」などの方針を掲げ、旧来の当社の「殻」を破り、不可能を可能にする取り組みを全国展開してまいります。

*「イネーブラー」は、英語の「enable(可能にする)」を語源とし、「不可能を可能にする夢を実現する伴走者」という意味。

(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)

   

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