「風蕭蕭」

エンタメ業界に公的資金という考え方

2020年7月号 連載 [編集後記]

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矢内廣・ぴあ社長

「ライブ・エンターテインメント業界を支えるスキルやノウハウを持った人材の流出や廃業を止められなくなるリスクを強く感じております。過去には特定業種や特定企業に対して公的資金を導入した例があります。当面のイベントの中止、延期に対する止血ということだけでなく、業界の生き残りのために、輸血を含めた支援策を考えていただきたいと思います」(矢内廣・ぴあ社長、5月29日、日本記者クラブの会見で)

チケット販売大手のトップとして、政府に対し、コロナ禍で大打撃を受けたライブ・エンターテインメント業界の存続のため、公的資金援助を求めている。

業界の推計では、今年2月から来年1月までの1年間の、イベントの中止や延期で売上高がゼロもしくは減少した公演・試合の入場料金の総額は6900億円。年間の市場規模が9千億円なので実に77%が消失する計算となる。これは事態が第1波で収まり、8月以降徐々にイベントが開催できることを前提にした推計で、第2波が来たら振り出しに戻るという。

照明さんや音声さん、衣装担当、グラウンドキーパーといった様々な専門家に支えられるライブ・エンターテインメント業界は、コロナの感染拡大が収まりさえすれば既存のハードやインフラによって以前の需要が戻ってくる産業と違い、人の散逸は命取りとなる。

そこで裾野の中小零細が人を手放してしまわないよう資本援助を要望しているのだが、矢内氏には「自粛要請を受け、ファンの移動や密集を未然に防ぐなど、コロナの感染拡大防止に真っ先に協力した。自らの意思で自らのビジネスを止めたのは我々の業界だけだ」という思いもある。

文化やスポーツは懐だけでなく人の心も潤す。政府は、ソフトパワーが失われた時の悪影響をどれだけ考慮できるだろうか。

   

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