ファンケル社長 島田 和幸 氏

「コロナ禍」こそ猛スピードで変わるチャンス!

2020年7月号 BUSINESS [トップに聞く!]

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島田 和幸 氏

島田 和幸 氏(Kazuyuki Shimada)

ファンケル社長

1955年広島県生まれ。79年同志社大学法学部卒業(在学中は合唱部部長)。同年ダイエー入社。創業者である故中内㓛氏の秘書を長く務める。マルエツを経て2003年ファンケル入社。07年取締役(経営戦略本部長)、11年取締役常務(管理本部長)、15年取締役専務を経て17年4月より現職。

――「初期対応」が早かったですね。

島田 武漢市が閉鎖された当日(1月23日)、こまめな手洗い・うがい・マスク着用の徹底、発熱があった場合は出社せず医療機関に受診する予防対策を全店に指示しました。横浜港に停泊したクルーズ船から当社(本社・横浜市中区)までクルマで10分ほど。最寄りの中華街からひとけが消え、悲しい気分になりました。2月5日から連日、役員・本部長を集めた早朝「危機管理委員会」を開き、店舗の営業時間短縮から休業の拡大、出勤率3割以下のテレワーク体制に移行しました。5月の連休中、直営店舗(215店)は全休になりましたが、通信販売を支える電話窓口は休めません。本社に集約していたコールセンターを5拠点に分散し、「密」を避ける座席配置・換気の徹底を図りました。幸いなことに、全社一丸となった感染防止により、目下のところ感染者を出さずに済んでおります。

「マルチチャネル」の強みを発揮

――2月以降、インバウンド需要が消滅したのに、前期決算は増収増益でした。

島田 当社は株式市場で「インバウンド銘柄」と呼ばれていますが、前期は「化粧品」「健康食品」とも国内販売が非常に好調でした。直営店舗が全店休業に追い込まれる過程で、お店のお客様を通販チャネルにご案内し、店舗販売の3分の2程度を通販に移行する「マルチチャネル」の強みを発揮することができました。

――どうやって顧客誘導したのですか。

島田 2016年に店舗と通販の顧客データを一本化し、リアルタイムで更新するIT改革を行い、コアな店舗会員をアプリ登録(50万人)し、お得な情報を随時お届けするシステムが整っていました。この店舗会員アプリをフル活用して店舗の休業をお知らせするとともに「送料無料」のECサイトへご案内し、相互利用のお客様を増やすことができました。

――緊急事態宣言が発令された4月以降の売り上げはいかがですか。

島田 当社の販売チャネルの4割を占める通販は、対前年同月比で4月は2割増、5月は3割増を記録しました。6月から直営店舗の全店再開が実現し、待ちかねたお客様がたくさんご来店になり、「客単価」も上がっております。

――今期の業績見通しは?

島田 国内販売は8月には前年水準に戻り、インバウンドは航空機の運航再開により10月以降徐々に回復するとの前提のもと、増収増益を見込んでいます。

――5月12日からECサイトで「マスク」の販売(送料無料)を始めましたね。

「国薬国際」から届いたマスクと、心に響く「休戚与共 風雨同舟」のメッセージ

島田 今回のマスク販売は、中国の国営企業「国薬国際(*)」との絆から生まれたものです。2月1日、武漢支援に向かう国薬国際に、当社の備蓄庫からマスク13万枚、防護服3千着、ゴーグル2千個、手袋6千個を支援しました。3月に入り、今度は国薬国際から当社の直営店舗スタッフ1800人の感染予防のため、「休戚与共 風雨同舟(**)」というメッセージとともに5万枚のマスクが届きました。

さらに、マスク不足で困っているお客様のために調達を打診すると、より迅速確実に入手するため国薬国際が代金を立て替えて3千万枚を調達してくれました。緊急事態宣言下、社員の総力戦で輸送、通関、検品、受注、物流の課題をクリアし、3週間で販売に漕ぎつけました。当社の創業理念は「世の中の“不”を解消すること」です。断続的に続くマスク「不足」と、マスクが買えない「不安」「不便」の解消に役立ったと思います。

「衷心感謝」の意を表すファンケル社員

――どこもかしこもマスク不足でした。

島田 国薬国際は医療従事者を守る高機能マスクも調達できるというので1万枚入手し、厚生労働省のマスク対策班に寄贈しました。また、日本保育協会にはマスク10万枚をお届けし、全国の保育所に配っていただきました。4月30日には創業者の池森賢二の発案で、当社の看板商品である「マイルドクレンジングオイル」2万本を日本看護協会に贈呈。現場の看護師さんから「ほっこりしました」というお便りをもらった時は、嬉しかったですね。

全社員が「自分ごと」と腹落ち

――アフター・コロナの展望は?

島田 世の中が激変するのは間違いありません。従来なら5年、10年かかるような変化が、瞬く間に起こります。例えばテレワークです。数カ月前まで全社員がテレワークだなんて、誰も想像しなかった。とても起きそうもないことが次々に起こる。東京五輪もどうなるかわかりません。当社は先進的な戦略チャネル投資がうまくいきましたが、この先、ツールとしてのITはますます進化を遂げ、ビジネス環境を激変させると思います。

――この先、景気はどうなりますか?

島田 政府が手を尽くしても簡単にはよくならないでしょう。旅行・宿泊・運輸や飲食・娯楽サービスなどは厳しいと思います。「三密」懸念から業態そのものがなくなる業種も出て来るでしょう。その一方で日本人の心に深く刻まれたキーワードがあります。「衛生」「清潔」「健康」「栄養」「免疫」……。「巣ごもり」期間中にお客様の意識は大きく変わり、健康維持に欠かせない必須栄養素(ビタミン・ミネラル)の売り上げが急増し、免疫への働きが注目されるビタミンDに至っては前年同時期の3倍以上になりました。変化するお客様のニーズに応えるため、免疫・疲れ対策サプリや「心地よい肌触り」「高い保湿効果」を持つオリジナルマスクを開発します。

――海外展開より国内回帰ですか。

島田 コロナ禍はやがて終息します。コロナ後を睨んだ海外戦略は不可欠ですが、以前のように打って出るだけではダメでしょう。国内外で共通するのは価値観の「変化」が激しいこと。我が社はどちらかというとのんびりした社風です。環境激変と向き合い、如何に早くお客様ニーズに応える新製品を開発できるか、オール・ファンケルの力が問われている。

私は社長就任以来「変わらなければ生き残れない」と言い続けてきましたが、平時においては馬耳東風に近いものがありました(笑)。「全店休業・店舗の売り上げゼロ」を経験した全社員が自分ごとと腹落ちしたと思います。コロナ禍の今だからこそ、猛スピードで変わるチャンスであり、ここで変われなかったらおしまいです。

(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)

   

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