野党共闘の天王山「京都市長選」

89歳の不破哲三前議長が1月党大会で勇退。「令和2・2・2」が高知の再来になるか。

2020年1月号 POLITICS

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勢いづく共産党の志位和夫委員長

「この国会を通じて野党共闘は画期的な前進を遂げた。野党連合政権実現のために頑張っていこうではありませんか」。臨時国会の閉会日となった12月9日夕。所属議員を前にマイクを握った日本共産党の志位和夫委員長の声は明るかった。中でも力を込めたのが首相主催の「桜を見る会」を巡る追及だ。「党議員団と赤旗が一体となって一大政治問題に押し上げた」。会場は万雷の拍手に包まれた。

200回目の節目となった前国会をリードしたのは共産党だったといっても過言ではない。10月13日に機関紙「しんぶん赤旗」が安倍晋三首相による「桜を見る会」私物化疑惑をスクープ。同党の田村智子参院議員が11月8日の参院予算委員会で首相を相手に攻め立てた。立憲民主党の枝野幸男代表は「数年に一度の素晴らしい質疑」と絶賛。他の野党もこの問題に便乗し、前国会を桜一色に染めた。20年の通常国会でも引き続き追及する構えだ。

大規模な候補者取り下げ

一昔前の共産党は、独自の戦いを繰り広げるはぐれ野党だった。それがいまや一転、現実路線への傾斜を進める。

20年1月の党大会で決める綱領改定もその一環だ。中国やロシアについて名指しを避けつつも「いくつかの大国で強まる大国主義・覇権主義は世界の平和と進歩への逆流」と批判した。綱領の改定は16年ぶりだ。

志位氏は記者会見で「社会主義に対するマイナスイメージが共産党の前進の障害になっている」と強調。そのうえで「共産党への誤解や偏見を解きほぐすのに大きな力を発揮するのは間違いない」と語った。綱領と併せて決める今後の活動方針案では、日米安全保障条約の破棄や自衛隊の解消などを取り上げ「政権に持ち込むことはしない」とも明記した。

次期衆院選に向けた選挙協力でも踏み込む。野党の幹事長・書記局長の間では「いつ解散・総選挙になっても、おかしくない状況であり、衆院選に向けた候補者調整のためのテーブルを設置し、協議を進めていく」ことで合意した。既に東京12区、神奈川10区、長野4区、京都1区、沖縄1区を最重点区とする方針を他党に水面下で提示。この5選挙区と、重点区とする20選挙区以外は候補を取り下げる考えを内々に伝えている。

過去2回の参院選では1人区で野党間の候補者一本化を実現した。衆院小選挙区でも野党候補の絞り込みができれば、初めてのケースになる。

共産党は党創立100年にあたる2022年までに野党連合政権の実現を目指すことを目標に掲げる。他の野党への傾斜を進めるのはそのためだ。もっともそうせざるを得ないのは、党が置かれた厳しい現状の裏返しでもある。

最大のネックは党員数の減少だ。ピークだった1980年ごろの約50万人から後退傾向が続き、現在は約28万人と半分近くまで減った。その半数が65歳以上と高齢化が著しい。

財政上の問題もある。赤旗の発行部数は8月の時点で100万部を割り込んだ。ピークだった80年の355万部から、3割未満まで落ち込んだ計算だ。赤旗購読料は党収入の8割以上を占める。このまま部数減に歯止めがかからないと、党の存亡にも直結しかねない危機的事態だ。候補者の大規模な取り下げ方針はこうした事情と密接に関わる。

共産党の長期衰退傾向は日本だけの話ではない。欧州の共産党の歴史をみると、89年のベルリンの壁崩壊後、いずれかの時点で選挙区調整に応じている。そこから閣外協力に転じ、最終的には中道左派政党への合流や党名変更という歴史をほぼ例外なくたどっている。モデルチェンジを図らないと生き残れない環境にあるのは、洋の東西を問わない。

変化の象徴はほどなく訪れるだろう。89歳の不破哲三前議長は20年1月の党大会を機に、最高指導部である常任幹部会のメンバーから勇退することが確実視されている。

9月には不破氏が所長を務める社会科学研究所の監修で新版『資本論』の刊行が始まった。不破氏は出版記念会で「『資本論』新版の刊行はこれまで世界に例がないものだが、これをやり遂げることは、マルクス・エンゲルスの事業の継承者としての責任・義務であると考えてこの仕事にあたってきた」とあいさつした。これが「ミスター共産党」の花道になるとの見方がもっぱらだ。

幹部人事を統括する87歳の浜野忠夫副委員長も併せて勇退するとの噂も囁かれる。ようやく世代交代が進み、共産党は人事面でも新たなステージに突入しそうだ。

福山幹事長が府連会長辞任

今後の共産党の行方を占う試金石となるのは、令和2年2月2日に投開票を迎える京都市長選だ。4選を目指す門川大作市長に、元京都弁護士会副会長の福山和人氏、京都市議の村山祥栄氏が挑む三つ巴の戦いになる。与党は門川氏を推し、共産党は市民団体とともに福山氏を支援する構図だ。

福山氏は弁護士としてアスベスト(石綿)による労災問題などに取り組んだ。18年の京都府知事選では共産党の推薦を受けて出馬。落選したが44%の得票率を得た。京都は伝統的に革新系勢力が強い。「共産系市長が誕生したら事件だ。次期衆院選にも影響が出る」と創価学会幹部は警戒感を隠さない。

もっとも状況は複雑だ。立憲は府連レベルで門川氏の推薦を決めた。京都が地元の福山哲郎幹事長は記者会見で、市議団からの要請などを優先したと説明。「党本部として推薦を出せる状況ではない」とも語った。国政で対立する与党との相乗りには立憲支持者から疑問視する声もあがる。福山幹事長は今回の決定に合わせて立憲の府連会長を退いた。

11月の高知県知事選では共産党員の新人候補が与党推薦の候補に挑んだ。敗れたものの枝野氏ら主要野党の国会議員55人が応援に入った。うち45人が選挙後に集まり慰労会を開催した。志位氏は「今後の大きな財産になった」と振り返る。

京都市長選は高知の再来となる可能性がある。福山幹事長の判断はこうした流れが出るのを想定し、事実上容認したとも受け取れる。「令和2・2・2」は野党共闘の深度を測るバロメーターにもなる。

   

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