参院大阪選挙区 反骨つらぬく「奮戦記」

2019年10月号 POLITICS [特別寄稿]
by 亀石倫子氏(弁護士)

  • はてなブックマークに追加

弁護士 亀石倫子氏

2019年のゴールデンウィークを、私はどん底の気分で過ごしていました。

4月に行われた統一地方選挙。25年に開催される万博誘致に成功して勢いを増す地域政党「大阪維新の会」は、公認する府知事と大阪市長が立場を入れ替え立候補する異例の「クロス選」で圧勝し、府内の20市町議選では公認候補73人中71人が当選、府議選でも51議席を獲得する圧倒的な強さを見せました。

他方、立憲民主党が大阪市議選に擁立した9人の候補者は全員落選。他の市町議選で合計19人、府議選で1人が当選したものの、政党支持率はわずか5%(NHK調査、今年4月)。立憲民主党結党当時の「風」は、とっくに止んでしまっているように感じました。

こうした状況で迎える7月の参議院選挙。定数4に対し、2人を擁立する維新、強い組織を持つ公明党、候補者を1人に絞った自民党。野党候補を一本化しない限り勝ち目がないことは、素人の私にも明白でした。

勝ち目はなくとも闘う

多くの方から「野党共闘を」という声をいただきましたし、誰よりもそれを望んでいたのは私だったかもしれません。野党候補を一本化できないのであれば、選挙区を替えることや立候補自体を取りやめることも含め、散々考えました。

ただ私は、男女同数の議会、いわゆる「パリテ」の実現に向け女性候補者の擁立を推進する立憲民主党において、もっとも早くに参院選への挑戦を表明し、その後の女性候補擁立の口火を切った立場でもありました。その後、全国各地からさまざまな経歴の女性候補者たちが名乗りをあげたことを心からうれしく思っていました。そんな私が、大阪では勝ち目がないから降りる、というわけにはいきません。

参院選への誘いを受けたのは、18年7月のこと。衆議院議員の辻元清美さんから私の法律事務所に電話がかかってきました。不在にしていた私は「嫌な予感」がして、辻元さんの携帯電話番号に「もしも選挙のお話でしたら、お断りします」という趣旨のショートメールを送りました。弁護士を天職だと思っていた私は、一生今の仕事を続けたいという思いと同時に、ややこしい政治の世界に巻き込まれたくないという気持ちもあったのでした。

それ以降、私は「断るための説得的な理由」を探すために政治や政治家に関する本を10冊以上読みました。読めば読むほど泥沼のような政治の世界。断る理由しか見当たらない。しかし私は、そんな泥沼に潜っていって、そこに何があるのかこの眼で見たいという思いに駆られてしまったのです。

格差が広がる社会。分断され、攻撃し合う市民。生きづらさを抱える人々。社会全体を覆う閉塞感。これは自己責任などではなく、政治の問題だ。そして、「ややこしいことに巻き込まれたくない」と政治に関わろうとしてこなかった、私のような人間の責任だ――。そう思った私は、参院選への挑戦を決意しました。結果は厳しいだろう。でも選挙に落ちたって死ぬわけじゃない。なにを訴え、どんな闘いをするかが大事だ――。5月の連休明け、私は再び腹をくくりました。

誰もが自分らしく、自由に生きられる社会にしたい。そう考える私の選挙活動は、独特のスタイルでした。街頭で配布する印刷物や選挙事務所の外装は、SNSで展開するキャンペーンと連動したメッセージ(ハッシュタグ)「#自由に生きちゃダメですか」を中心に、政策を訴えるテキストで構成した斬新なデザインにし、選挙事務所も気軽に入りやすいようカフェのような内装にしました。街頭に立つときは、「候補者」のイメージにとらわれず好きな服を着て、弁護士としての仕事を通じて知り合ったナイトクラブのDJや、タトゥーの彫り師さんたちが応援演説をしてくれました。

強い者と対峙する信念

私は自分が候補者になるまで、特定の候補者を応援したことがなく、SNSをフォローしたことも、街頭演説に足を止めることもありませんでした。かつての自分のような人に、どうしたら関心を持ってもらえるだろうか。どうしたらその人たちの心に、私の言葉を届けることができるだろうか。街頭でのスピーチの内容や伝え方を考え抜きました。

ロスジェネ世代で超就職氷河期を経験した私は、弁護士になってから、経済的に困窮している方々のために働きました。刑事弁護人として国家権力と対峙し、時には被疑者・被告人に向けられる社会の差別や偏見とも向き合ってきました。たとえ「悪人の味方」などと世間からバッシングされても、意に介さず権力の不正に立ち向かっていきました。誰かの自由が脅かされようとしているとき、それを見過ごせばいつか別の形で自分に返ってくる。誰かのためでなく、自分たち自身のために、自由な社会を守らなければ──。

私のスピーチを聞いて、「同性婚のことを言ってくれてありがとう」「私も非正規。結婚はあきらめた」「障がいのある子どもがいる。障がい者にやさしい社会にしてほしい」と目に涙を浮かべて打ち明けてくれる方々が毎回いました。普段は普通の顔をして生活しているけれど、本当は泣くのをこらえている。心の中で、社会の不合理や差別に苦しんでいる。SNSの動画を見て初めて街頭演説に足を運んでくれた方や初めて選挙事務所に手伝いに来てくれた方、初めて投票へ行ってくれた方がたくさんいました。

選挙が終わった今、挑戦してよかったと心から思っています。政治に関心がなかったり、あきらめてしまっている、かつての私のような人の心を、わずかでも動かすことができた。そんな実感があります。

私はどのような立場であっても、社会の中で光の当たらない場所にいる人のことを想い、その人の側に立って、強い者と対峙することを選び続けるでしょう。それが私の生きる道であることを今回の選挙を通じて再確認しました。これまで支えてくださったすべての方々に感謝しながら、また一人の弁護士として、私は「ささやかでかけがえのない自由」を守るために働いています。

著者プロフィール

亀石倫子氏

弁護士

   

  • はてなブックマークに追加