何のための刑事裁判なのか
2019年8月号 連載 [編集後記]
「愛知製鋼がこの公判で権利主張している営業秘密の大元であるワイヤ挿入装置自体が、JST(旧科学技術振興事業団)との契約に違反して不正に同社の中に秘匿された(中略)そのような不正な手段によって得た秘密とは、不正競争防止法によって保護するに値しない」
(竹内康二弁護士、7月9日、名古屋地裁2号大法廷)
かつて技術担当専務の任にあった愛知製鋼の営業秘密をホワイトボードに描いて他社に漏らしたとして、不正競争防止法の罪に問われている本蔵義信氏の刑事裁判。第2回公判が初公判から2年以上経ってようやく開かれた。
なぜ2年もの月日が期日間整理に費やされたのか。それは、本蔵氏が漏らしたとされた愛知製鋼のMIセンサーの工程が、そもそもどんなものだったのか、一向に定まらないのが原因らしい。そのため裁判は、弁護団が公訴自体をさっさと棄却せよと求めるなど、完全に「ガチンコ」の様相だ。
今回の事件は、愛知製鋼のMIセンサーの技術は競争力を失っているので技術革新が必要だと会社に訴えて拒絶された本蔵氏が、それならと自ら会社をつくり、そこで新技術GSRセンサーを発明し生産しようとする過程で起きた。作り方が原理レベルから異なるのに、どうして愛知製鋼の工程を設備を造る会社に漏らす必要があるのか──、などおかしな点が多々あることは、2017年11月号の記事「トヨタ『EV技術者』投獄血祭り」で伝えた通りだ。
竹内弁護士の主張の通りなら、愛知製鋼は国費を使って研究成果を得ておきながら、義務に反してきちんと国に報告せず、成果を専ら自らの物としたことになる。
愛知製鋼は自ら保有する技術をいったいどれだけ正しく理解し、評価できているのだろうか。それ以前の問題として、いったい何を目指しているのだろうか。