医療法人「冠心会」東京ハートセンターの命脈

2019年8月号 DEEP

  • はてなブックマークに追加

医療法人「冠心会」設立者、遠藤真弘氏

本誌が過去に何度か問題点を指摘してきた医療法人「冠心会」(東京都品川区)にどうやら終局が近づいているようだ。瓦解の発端は関連法人「一成会」(さいたま市)の破綻。病院乗っ取り業界で有名な元税理士の親密先に資金繰りを頼る末期的情況で、事態は風雲急を告げている。

東京女子医科大学で心臓外科の第一人者だった遠藤真弘氏が設立した冠心会は2005年に「東京ハートセンター」(88床)を開業し業容を急拡大。遠藤氏は16年4月、「さいたま記念病院」(199床)を運営する一成会の理事長にも就任した。

ところが今年4月、その一成会が倒産する。乱脈経営に危機感を抱いた理事が東京地裁に準自己破産を申し立てたのが事の始まりだ(直後に民事再生手続きに移行)。窮状を物語っていたのが、生命線である診療報酬債権を丸ごと担保として差し出すファクタリング取引に資金繰りを頼り切っていた点。その額は約9億円にも上っていた。

しかもその相手が「筋悪」。民事再生申立書によると、一成会は16年11月頃からファクタリング中毒に冒されていた。契約先は東京都中央区の会社。登記簿の目的欄を見ると、呉服販売などとあり、貸金業は謳っていない。それだけで怪しいが、周囲に存在するゴルフ場運営会社など会社群を辿ると、ある人物が浮かび上がる。吉富太可士・元税理士がその人である。

現在、吉富元税理士は刑事被告人の身だ。医療法人「徳友会」(14年5月破産)を舞台とする不正リース事件で昨年7月に逮捕・起訴された。それ以前、吉富被告は富士バイオメディックス(08年10月倒産)を巡る粉飾事件でも12年3月に執行猶予付き有罪判決を受けている。

件のファクタリング取引の会社群と吉富被告の接点は11年頃。吉富被告が乗っ取った「聖八王子病院」の土地建物を前出のゴルフ場運営会社が買い取った。例の呉服販売会社は一成会と同時期に和歌山県の病院ともファクタリングを始めているが、吉富被告はその病院の関連会社に取締役として入り込んでいた。

そもそも一成会が資金繰り難に陥ったのは、遠藤氏の理事長就任直後に3億円近くが預け金として冠心会に流出していたためだ。じつのところ、東京ハートセンターへの巨額投資が祟り冠心会は長らく火の車。完成から1年足らずで建物を臨床試験支援会社のアイロムグループに売却したものの、後に多額の債務などを巡り同社と鋭く対立。冠心会は一時、民事再生手続きの手前まで追い込まれた。

そんな中、冠心会は例のファクタリング取引の相手と接点を持つ。賞与資金の融通を受け11年初めにはスポンサー探しも一時依頼するほどだった。一成会を支配下に入れたのも当初から資金獲得が目的だった疑いがある。東京ハートセンターの土地建物は12年7月から小学館と集英社の関連会社が所有しているが、冠心会の賃料支払いは昨年10月分から遅延しがちで、約9千万円が未払いだ。赤十字社から訴えられるなど、医療器材の仕入れにも事欠いている。

冠心会の経営は遠藤氏の妻・容子氏の影響が強いとされる。一成会の債権者説明会によると、ファクタリングで得た資金はまず冠心会に入り、一部は容子氏の関連会社にも流れていたという。今後、遠藤夫妻に対する責任追及は必至の情勢だ。

   

  • はてなブックマークに追加