西田 昌司 氏 自民党参議院議員

「MMT」は暴論にあらず 消費増税は凍結せよ!

2019年7月号 POLITICS [プロフェットに聞く!]

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西田 昌司 氏

西田 昌司 氏(Shyoji Nishida)

自民党参議院議員

1958年京都市生まれ。滋賀大経済学部卒。90年から京都府議連続5期トップ当選。亡父・西田吉宏参院議員の後継として2007年参院初当選(京都選挙区・当選2回)。税理士時代のスキルを活かし、国会で舌鋒鋭く疑惑を追及。近著『財務省からアベノミクスを救う』(産経新聞出版)が話題に。

――米国で「MMT」(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)が注目を浴びています。「自国通貨の発行権限を持つ政府は債務不履行に陥るリスクがないから、インフレにならない限り、いくら財政赤字を膨張させても構わない」とする異端の学説です。

西田 4月の参院決算委員会で、麻生財務相は「極端な議論に陥ることは極めて危険。日本をMMTの実験場にする考えはない」、黒田総裁は「極端な主張であり受け入れられない」と否定したが、米国の学者が言うように、日本の財政運営がMMTの正しさを実証してきたのは間違いない。実際、日本の国と地方の債務残高/GDP比は235%と、太平洋戦争末期に匹敵する有り様なのに物価は上がらず、長期金利はマイナス圏です。

「財務真理教」のプロパガンダ

――財務省は財政制度等審議会に62ページに及ぶ反論資料を提出し、「異端」の理論として切り捨てようとしています。

西田 MMTは異端でも暴論でもない。ガリレオが唱えた「地動説」のように、やがて目から鱗が落ちる日が来るでしょう。アベノミクスによる「異次元の金融緩和」は、本来、民間企業の投資拡大が目的だったが、政府が国家の長期ビジョンと、それを実現するための財政出動を怠ったため、民間には国の先行きが見えず、投資をためらっている。そもそもデフレ危機からの脱出には、政府の財政出動による民間需要の創造が不可欠なのに、財政再建しか頭にない財務官僚は「これ以上国債の発行残高が増えると、いずれ返済不能になり財政破綻する」と言い続けてきた。特に問題なのは、国家の財政問題を家計にたとえて危機を煽る手法です。収入以上の生活を続けた家計が破綻するように国家も破綻すると、財務省は言うが、税収以上の予算を使っても、国家は決して破綻しない。なぜなら政府には、国家の経済状況に合わせて通貨を発行したり、租税を徴収したりする超越的な権限があるからです。一方、国家から通貨発行権を保証された日銀も、いくら国債を買っても、破綻することはない。要するに、通貨発行権を持つ主権国家が、自国建ての国債を発行し過ぎて返済不能に陥ることなどあり得ないのです。それを、いつの日か国家財政が破綻し、国債が暴落すると喧伝するのは、国家と一般家庭を混同させる詐欺的プロパガンダと言わざるを得ない。財政再建至上主義の財務省は、国民経済を無視する本末転倒の過ちを犯している。私は「財務真理教」と呼ぶが、マスコミや識者の中にも、何と信者が多いことか(笑)。

――財務省の反論資料には諸外国における財政危機の事例が縷々紹介されています。ハイパーインフレになりませんか。

西田 予算が伸びる一方で税収が伸びず、その差が広がっていく折れ線グラフを、財務省は「ワニの口」と呼び、このまま「ワニの口」が広がると、財政が破綻すると警告する。さらに国債を発行し過ぎて国債の信認が失われると、円レートが暴落し、エネルギーや食糧を海外に依存する日本国内の生活必需品が暴騰し、ハイパーインフレに陥ると、真顔で脅すのです。仮に国債が投げ売りされても、通貨発行権を持つ日銀が買い支える限り、国債暴落などあり得ない。だいたい中央銀行に対して、円建ての国債を売り浴びせることなど、誰が想像できますか。

第2次安倍政権の発足当時から、私は京大の藤井聡教授と評論家の中野剛志さんと3人で総理を囲み、政策提言をしてきました。我々が申し上げたことは、まず公共事業費などデフレ脱却のために必要な予算を国債発行で賄うこと。日銀が政府と協力して、市場から購入する国債を増やせば、民間投資を市場から締め出すクラウディングアウトに陥ることなく、民間投資を増やすことができ、短期間でデフレから脱却できると訴えてきた。

アベノミクスは、新自由主義に基づくマネタリズム論に依拠するものでしたが、我々の主張は、政府の需要創造が民間投資を呼び起こし、それが通貨発生量を増やすことになるという、似て非なるものでした。金利がゼロでも融資が伸びない状況は、銀行の収益力を極端に悪化させ、この状態が続けば、金融破綻が続出するハメになる。間違いなく危機が迫っています。そうならないためにもアベノミクスは進化しなければならない。

「2%」達成まで消費増税凍結

――米国MMTは日本の後追いですね。

西田 デフレを貨幣現象と考え、通貨の量を増やせばデフレから脱却できるとしたマネタリズムは間違いでした。今こそ財政出動による需要創造を早急に行うべきです。GDP比の政府債務残高がどの水準に達したら、ハイパーインフレになるか定説はない。大事なことは学説ではなく、現実がどうであるか。学説に合わせて現実を見るのではなく、現実を直視して対策を考える柔軟性。MMTは財政破綻やインフレを軽視しているとクソミソだが、よくない兆候が出たら政府の支出抑制や増税で臨機に対応すればよい。

――いよいよ参院選です。消費増税を再々延期して衆参同日選との観測もある。

西田 同日選はともかく、消費増税を実施できる経済状況にない。3月の景気動向指数の基調判断は6年2カ月ぶりに「悪化」となり、1~3月期のGDP速報値はプラス成長を確保したが、個人消費も設備投資も減少し、輸出も大幅なマイナスだった。おまけに米中貿易摩擦が激化し、世界経済は視界不良です。私は自民党内で「政府公約の2%のインフレ目標を達成するまで消費増税は凍結すべき」と吠えています(笑)。野党も消費増税に反対しているのだから、ここで安倍さんが「消費増税凍結」を宣言したら、参院選は自民党が圧勝するでしょう。

今、我が国に欠けているのは希望です。政治の使命は、国民に日本の将来に対する希望を明確に示すことです。アベノミクスを成功させるためにも、今必要なことは財政拡大による需要創出です。国が日本全体の将来計画を予算と共に示すことにより、それぞれの地域でその計画に連動した民間需要が創出されます。その結果、マネーストックが拡大し、デフレから完全に脱却することができるのです。

(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)

   

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