「風蕭蕭」

公的資金注入に人身御供は必要か

2019年5月号 連載 [編集後記]

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東郷重興・元日本債券信用銀行頭取

「日本人は肝っ玉が小さい。勇気を失うことはすべてを失うことだ」「(橋本龍太郎政権が立ち上げた佐々波委員会で必要公的資金注入額を)3千億円と言ったのに600億円に削られた。不良債権を4800億円処理し、2900億円増資した。あと3千億円あったら破綻は避けられた」(東郷重興・元日本債券信用銀行頭取、4月10日、日本記者クラブでの記者会見で)

日本銀行国際局長時代に大和銀行事件に遭遇した。行員の投資失敗で米金融当局からニューヨーク支店の閉鎖を命じられる大事件だ。邦銀はどこも信用が置けないと、外貨調達の際、横並びで2%ものジャパンプレミアムを課せられた。

その年の末、都市銀行15行はいよいよドルの調達に困った。東郷氏は円高防止の為替介入で大蔵省がため込んでいた400億ドルの外貨を融通した。これを恩に感じたのか、都市銀行は翌年、東郷氏が転出した日債銀の2900億円もの増資にみんなで協力した。増資に成功したことで東郷氏は日債銀頭取に昇格した。

しかし、人間万事塞翁が馬で、そこへ金融危機が到来。日債銀は破綻し公的資金の注入を受ける。東郷氏はその際、有価証券報告書の不良債権額を偽ったとして1999年7月に逮捕され1審と2審で有罪判決を受ける。最終的に無罪を言い渡されるが12年もの歳月が経っていた。

バブル経済期に無謀な融資を膨らませた3代前の頭取はすでに時効。でも誰かを罰しないと世間の収まりがつかないと国会では野党の追及が激しさを増し、東京地検特捜部のお出ましとなったのだ。

平成の30年間の金融の混乱の責任を全部背負わされそうになった東郷氏は「ロンドンやニューヨークの金融界はまとまりがすごくある」と日本の銀行の互助精神のなさを嘆く。あのときはどこもそんな余裕はなかったと思うが。

   

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