読者の声

2019年5月号 連載

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私は若いころオーストラリアの外交官だった。1964年10月赴任先のモスクワで信じがたい事態に遭遇した。米国にけしかけられ、オーストラリアの外務大臣がモスクワにやって来てコスイギン首相とグロムイコ外務大臣に内密の会談を要求。その目的は、中国が当時中国の傀儡政権とみられていたベトナムに“武力侵攻”するのを阻むため、ベトナム問題では西側と組むようソ連を説得することにあった。

私はオーストラリアの大臣の浅薄さとベトナムで残忍な戦争が始まりつつあることにショックを受け、外務省を去る決心をした。西側指導者の無知蒙昧ぶりとその外交戦略がアジアの貧しい小国ベトナムにもたらす戦慄を世界に知らしめようと、私は全力で取り組む覚悟だった。

記事を書き、本(『In Fear of China』邦訳『国際政治と中国』)を出版し、スピーチをした。言うまでもなく私自身が変わったわけではない。ただその時、客観的で批判的な『FACTA』のようなメディアが存在しなければ、事実が埋もれ、覆い隠されて日の目を見ることがないことに気づいたのだ。

Research Japan Office 取締役社長 グレゴリー・クラーク

   

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