「風蕭蕭」

改憲論議はどこへ行く

2019年3月号 連載 [編集後記]
by 知

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記者会見する下村博文・自民党憲法改正推進本部長

「国民のみなさんが、テーマはともかくとして憲法議論についてはしっかりやるべきではないか。そして、3分の2以上のコンセンサスが得られるような条文案があれば議論していくべきではないか、ということで我々は4項目についてとりあえずはイメージ案を作りました」(下村博文・自民党憲法改正推進本部長、2月1日、日本記者クラブの記者会見で)

目的を達成するための手段が、時間が経つうちにいつの間にか目的となってしまうことを「自己目的化」という。自己目的化が起きると、必ずということではないが、当初の目的に反して、意図せざる、ゆゆしき事態を招く。

自民党は1955年の結党以来、憲法改正を掲げてきた。当初から、GHQのお仕着せでない「自主憲法」の制定をもっとも声高に主張しており、憲法を変えてどのような国にするのかという点は有権者からは見えにくかった。

自民党にとっては改憲自体が目的だから、改憲テーマが自衛隊明記から何に変わろうと、自己目的化が起きたことにはならない。それでも自民党の改憲責任者に「テーマはともかくとして」と明言されるとさすがに戸惑う。

文部科学行政に詳しい下村氏は、3分の2のコンセンサスを得られそうなものとして、教育を受ける権利と義務教育を定めた憲法26条への加憲を推す。20年後には9割の人の仕事がなくなってしまい労働の価値も労働の定義も違ってくる、その中で常に教育によってスキルアップや、自己の存在感、能力アップができるような環境を作るため加憲するのだという。

だが、この「仕事がなくなる」という話は、ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』やシンギュラリティ論から来ているという。謎めいた説明で、とても議論の輪に入り込めない。改憲論議はどこへ向かっているのだろう。

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