ETCが誤作動しかねない。「不具合」と言い繕うが、ユーザー16万人以上が電波法違反。
2019年3月号 LIFE
5.8GHzを検出した測定器画像
ついに尻尾をつかまえた。翻訳機「ポケトークW」(18年9月発売、2号機)が電波法違反の5.8GHz帯で発信していることを測定器で本誌がつきとめ、1月10日に総務省電波環境課に証拠画像とともに通報した。同課から23日に記者に電話で違法電波の放射を確認したという連絡が入り、25日に販売元ソースネクスト(東証1部上場)に行政指導したと発表した。
5.8GHz帯は中国や米国でWi-Fiに割り当てられている帯域で、日本の電波法に準拠したWi-Fi製品は海外製でもこの帯域をマスキングして販売しなければならない。日本国内では高速道路のETCに割り当てられた帯域で、クルマのダッシュボードに5.8GHzを出す端末を置いたままゲートを通過しようとすると、最悪の場合、誤作動が起きてゲートが開かず後ろから追突される危険性がある。無線関係者の中には「殺人電波」と呼ぶ人もいる。
店頭では安上がりな紙1枚の「お知らせ」。しかも改竄前の文面(1月6日、ヨドバシカメラで)
ポケトーク「摘発」の連携プレーがスムーズだったのは、すでに本誌が昨年12月号で1号機の「技適」(技術基準適合証明)違反を暴き、19年2月号でも2号機のパクリ疑惑を報じたから、総務省の現場は狙った獲物は逃さない本誌の正確な報道で即動いたのだ。しかもオマケつきだ。5.8GHz帯の違法電波だけでなく、技適の適合証明を受けていない5.3と5.6GHz帯まで放射していることも明らかになった。
仏の顔も三度である。ソースネクストに反省の色はない。11月リリースの1号機と同じく、「不具合のアップデート」という小手先のリリースで済まそうとした。問題は、電波法違反はメーカーでなくユーザーが罰せられることだ。「1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処する」と明記している。ETCのように人命にかかわる場合は「5年以下の懲役、または250万円以下」の罰金だ。
1号機はアップデートを始めてから2カ月余、9万機のうち「半分強」というから4万人のユーザーが今も違法端末と知らずに使っている。2号機は青谷征夫執行役員によると「Wi-Fiモデル、SIM内蔵モデルともにアップデートの対象」だという。16万人以上のポケトークWユーザーが電波法違反の状態に置かれていることになる。
実はこれだけチョンボ続きのソースネクストの技術陣の顔が見たかった。汐留の本社で会うと、案に違わずまともに答えられない。報道発表の約2時間後にファームウェアとソフトウェアのアップデートを手回しよく開始。青山文彦取締役常務執行役員は「アップデートで3つの周波数帯に蓋をして放射を止めた」というが、ポケトークWの場合、普通に端末の電源を入れただけでは、違法電波は出ず、ある操作を行ったときにだけ放射される。
どういう操作が発信の条件になるか知っているかと聞くと、「5.8GHz帯の違法電波は中国の工場からは放射を止めたという報告を受けてはいるが、どのような環境で測定を実施し、どんな状況で放射されるのかまでは把握できていない」とトホホの説明、「うちはソフトの会社ですから」とその場しのぎだ。
無線の専門家でもない本誌記者がDIY検査で突き止めた違法電波放射を解明できなくて、周波数帯のマスキングなどできるのだろうか。ポケトークWの設計と製造は中国深圳市のあるODMメーカーが請け負っているが、リバースエンジニアリングで悪名が高く、とっさの対応ができる技術力があるかは疑問だ。
しかもソースネクストはリリースの改竄までやってのけた。総務省からWi-Fi電波が違法状態に置かれていることを指導されたにもかかわらず、アップデートの案内には「ポケトークをWi-Fiに接続し……」とある。Wi-Fi利用が違法だと国に指摘されたのに、ユーザーにWi-Fi接続を促すなどあり得ない。本誌は総務省に「アップデートで違法行為を助長することになる」と警告したところ、たちまち照会が行って1月31日、「ポケトークを2.4GHzのWi-Fiに接続し……」と「2.4GHz」がひっそりと追加されていた。
限定したのは、この周波数帯であれば技適の証明を受けているから、という意味だろう。だが、Wi-Fi機能をオンにしていれば、5.8GHz帯の違法電波を放射する可能性があるという事実をお忘れか。つまり、アップデータのダウンロード中とそれが適用されるまでの間は、ユーザーは違法を自覚した上で端末を使っていることになる。以前のように不作為ではないのだ。
青山常務は改竄を「追記」と言い逃れる。「サイトでの告知以外に、端末の画面表示、店頭のお知らせ、はがき等で実施し、自分で作業できない人には送料弊社持ちで送付後作業して戻す」というが、ユーザーに迷惑をかけたことに一言の謝罪もない。家電量販店など店頭で売りさばいたポケトークはユーザー名と住所やアドレスが不明のものが多い。違法商品を本気でなくすつもりなら、発売停止か全品の有償回収をすべきだろう。できるだけ目立たないように店頭にアップデートを呼びかける掲示と場当たりのリリースではいつまで経ってもアップデートは進まないとの追及に、小嶋智彰取締役専務執行役員は答えず薄笑いを浮かべるだけだ。
彼が語気を強めたのは前号の「パクリ疑惑」で、1号機のメーカーであるオランダのトラヴィス社の創業者の一人で昨年末に来日したニック・ヤップ氏が本誌に「9月末から日本の弁護士を介してソースネクストと折衝中」と語ったことについて、社員も弁護士も接触していないと全否定したことだ。しかし本誌記者が改めてヤップ氏に確認すると「コンタクトしている」とメールが返ってきた。
1号機のアップデートはトラヴィスをせっついたのだから接触なしはにわかに信じられない。ポケトークをインバウンド客向けに大量購入しようとしていた上場・非上場企業が、「コンプライアンス上、違法翻訳機をレンタルするわけにいかない」と二の足を踏み始めており、アップデートで繋ぎとめに必死だ。
ソースネクストには久保利英明弁護士、元日本郵政公社総裁の生田正治氏、元ソニー社長の安藤国威氏とご立派な社外取締役がついているが、彼らの目は節穴か。明石家さんまの「あなたの歯がほしい」のCMのおかげで売れたが、余計なのは出っ歯ではない。デンパである。