SOMPOホールディングスが積極推進 SDGsをビジネスチャンスに

世界のさまざまな課題解決を謳う国連の「持続可能な開発目標」。SOMPOホールディングスグループが、事業で好循環をめざす取り組み。

2018年9月号 INFORMATION

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社内で開催されたサポーター養成講座

SDGs――最近、この言葉をよく見かけるな、と感じる方も多いだろう。2015年9月、ニューヨークで開催された国連サミットで全会一致で採択された、30年までに達成する17の「持続可能な開発目標」のことである。

左のカラフルなアイコンは、その17の目標を表したもの。貧困や気候変動をはじめ、どれも参加者が少なくては実現できない大きく重い目標ばかりで、「人類及び地球にとって極めて重要な分野」と位置づけられる。達成へ向け、すべてのステークホルダーが実行することが求められ、すでに国内でも政府だけでなく自治体、企業などの取り組みが始まっているが、まだ十分に浸透したとは言い難い。

そんな中で、採択後いち早くSDGsに沿った事業目標「CSR―KPI(重要業績評価指標)」を定め、グループ全体で取り組みを進めているのが、SOMPOホールディングス(以下SOMPO)だ。

コーヒーを糸口に理解深める

海外でもM&Aを進め、保険を中核に他分野にも進出するSOMPOグループ。しかし国内、海外で環境問題や情勢不安などの社会的課題が顕在化する中、トップの危機感は強い。

「何が起こるかわからない時代だからこそ、企業が持続的な成長を果たしていくためには、ぶれない信念・ビジョンを持つ必要がある」(櫻田謙悟・グループCEO)

そんな認識のもと、同社は「防災・減災への取り組み」や「ダイバーシティの推進・啓発」など、五つの重点課題を企業の社会的責任(CSR)として策定。SDGs採択後の16年4月から、各重点課題がSDGsのどの目標に該当するのかを明確に紐付けた。たとえば「地球環境問題への対応」であれば、左の目標の7、13、15、17が該当するという具合だ。

社内でSDGsの理解促進に取り組むCSR室副長の冨樫さん。首にかけたストラップの先のオレンジリングは認知症サポーターの証

さらに、200以上にのぼる全部署に、毎年CSRの目標を掲げてもらい、同社独自のCSRマネジメントシステムの中で、その目標がSDGsのどの項目に該当しているかもあわせて認識してもらう仕組みも導入した。「働き方改革を進める」という目標を掲げる部署は、SDGsの目標5や8。「ご当地保険の販売を通して地域の防災意識を高める」ならSDGsの目標11の推進になるな、と各部署が自覚的になれる。「SDGsというだけでは世界の遠い国のことと思いがち。身近なところで会社の仕組みとして理解してもらいたい」(同社CSR室副長の冨樫朋美さん)





社員食堂で提供されるコーヒーはレインフォレスト・アライアンスの認証を受けた農園で生産された豆を使用。社員に「消費者としての行動変革」を促す

社内報等で周知するほか、毎年全社員が必ず受けるCSR研修でもSDGsを紹介。また、この6月から新宿本社ビル内の社員食堂で「サステナブル・コーヒー」の提供を始めた。これはSDGsのいくつもの項目につながる取り組み。気負わず誰でも参加できるコーヒーを糸口に社員が自らSDGsへの貢献に気づき、マインドを変えていくことを狙ったものだ。

SOMPOがこうして社員一人一人の意識を高めながらSDGsに取り組むのは、狭い意味での「社会貢献活動」からだけではない。社会的課題が、本業のビジネスにもつながっていくとの発想に基づいている。もともと保険や介護など同社の事業分野は課題解決の側面を持つが、さらに意欲的な取り組みをいくつも開始している。

認知症サポーターを8千人育成

ドライブレコーダーを貸し出して運転支援をするサービス「DRIVING!」

たとえば、今年1月から提供を始めた商品「DRIVING!」。運転に不安を感じる人向けにドライブレコーダーを貸し出し、運転を支援するサービスだ。運転中の映像を記録するだけでなく、ヒヤリハットや追突の危険など走行中のデータを記録し、運転診断レポートは家族と共有できる。車が必要な環境で少しでも安全に長く運転したい人のために開発されたこのサービスは、SDGsの目標3や11に直接関わってくる。

グループを挙げて進める「認知症サポーター」の育成も、健康・福祉の面でSDGsに沿いつつ本業と密接につながる。サポーターを育てる講師役をまず社内で養成し、講師の資格を取った人は自分の支社や部署に帰ってサポーター養成講座で指導する。こうして育ったサポーターの人数は代理店も含めると、今年6月末時点で8772名。高齢化が進む地域で支店全員が取り組む例もあるそうだ。「事故時などの電話対応で、認知症の方と接するケースも増えていますが、知識があればゆっくりお話を聞くなどこちらの心がけも違ってきます」と、自身も講師資格を持つ冨樫さん。超高齢社会を迎え、認知症理解が深まれば顧客対応などさまざまな場面でプラスになるだろう。

企業が社会的課題の解決を事業に組み込み、収益を上げていければ、継続して大きな成果につながる。そんな認識は、社員の中で着実に育っているようだ。

採択から3年、経済界でSDGsへの注目度は高まりつつある。先進事例に倣い、ビジネスにつながる良い循環を生み出せるか、期待したい。

(取材・構成/編集委員 上野真理子)

   

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