清水信哉 エレファンテック代表取締役社長

電子回路を印刷でスピード作製

2018年9月号 BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]

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清水信哉氏

清水信哉氏(しみず しんや)

エレファンテック代表取締役社長

1988年生まれ、30歳。2012年、東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程を修了し、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。14年1月にエレファンテックの前身のAglCを設立。

――今までとまったく違う方法で電子回路を作っています。

清水 これまでの方法は、まず銅を基板の全面に貼り、不要な部分を削って残った部分を配線とします。基板に占める配線の比率はものすごく小さいのでほとんど銅を捨てることになります。我々の方法は要らないところを削るのではなく、配線として必要なところにインクジェットプリンターでまず銀のナノ粒子を印刷し、その上にめっきで銅を成長させ配線に仕上げます。試作、量産試作、量産段階でそれぞれ必要だった型やマスクは一切不要で、製造プロセスは50%以下になり、必要な材料は30%ぐらいで済みます。廃棄物の量はここ東京都中央区で工場を操業できるくらい少なく、既存の方法の10%以下になります。量産に入った後の回路の変更も簡単にできます。

――目から鱗の作り方です。

清水 印刷で作る方法は10年ぐらい前に提唱され、日米英仏で取り組まれましたが、みなうまくいかなくてやめました。我々は、印刷のコントロールに成功し可能にしました。この10年でインクジェットプリンターのヘッドの技術や、金属ナノ粒子の加工技術の進展があってできました。プリンターのコントロール、インクの調整、印刷対象のフィルムの表面の処理の三つがうまく一致しないと印刷がうまくいきません。量産レベルで品質を同じにするのが大変です。めっきは古い技術で、これまで職人さんが状態を見て液を足すなどいろいろなコントロールをしていましたが、それをすべて数値管理し、10倍以上の速度で安定的にできるようにしました。

――この技術で会社を興そうと思い立つきっかけは。

清水 大学で電子回路の設計をやっていた時から試作にコストがかかり過ぎると感じていました。コンサルティング会社に入り半年ぐらいアメリカにいたとき、大学時代の先生とMITで再会し、何か面白い技術はないですかという話の時に、プリンテッド・エレクトロニクスの話になりました。日本はインクジェットの技術が高く、世界のスタンダードを取れる可能性がある技術だと思い起業しました。

――製造業各社の反応は。

清水 医療機器やFA機器など多品種少量生産の製品向けのニーズが高いです。フレキシブル基板の市場は4兆円程度あり、2030年ぐらいまでにおよそ半分が印刷など新しい製法に変わっていくのではないかと言われています。将来は配線だけではなくトランジスタや有機ELなどの素子まで全部印刷でできるようになるというのが我々の目指すところです。プリンテッド・エレクトロニクス界の巨人になります。

(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)

   

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