横領続出「リーガルサポート」

成年後見の推進を謳う公益社団法人の看板に偽り。食えない司法書士の餌食になる認知症高齢者。

2018年8月号 LIFE
by 長谷川学(ジャーナリスト)

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成年被後見人の財産を守ると標榜するリーガルサポートHP

まるで恒例行事のように所属会員が横領事件を起こしている公益社団法人がある。「成年後見センター・リーガルサポート」(矢頭範之理事長・以下「リーガル」)のことだ。

リーガルは日本司法書士会連合会が成年後見制度のスタート(2000年)前年、成年後見業務推進のために立ち上げた任意団体。昨年9月の会員数は7994人で、司法書士(2万2283人)のほぼ3人に1人が加入している。

リーガルが“後見の受け皿”として創設された背景には、司法書士業界の過当競争がある。司法書士の主要業務の不動産登記件数は1996年の2088万件が16年には1164万件に半減。逆に司法書士は95年の1万6818人から20年あまりで1・3倍に増えた。

ベテラン司法書士が言う。

「過当競争で食えなくなった司法書士たちがリーガルを立ち上げ、後見業界に大量に流れ込んでいる。リーガル会員にならないと、司法書士は家庭裁判所から後見人の仕事をもらえない」

後見人になれば、認知症の高齢者などの成年被後見人から毎月報酬が支払われる。後見事務の報酬は最低でも月額2万円程度、管理財産が5千万円超になれば5~6万円とされる。

専務理事が2千万横領

今年6月16日、リーガルの定時総会で、業務上横領を理由に2人の司法書士がリーガルを除名された。このうち神奈川県横浜市の司法書士は昨年、成年被後見人ら2名の口座から約200万円を横領。事務所の運転資金、住宅ローンの返済などに充てた。

もう1人の北海道函館市の司法書士は昨年、成年被後見人の女性の銀行口座から300万円を横領し借金返済に流用。横領を隠すため女性の通帳の原本を改竄し、この司法書士を後見人に選任した函館家庭裁判所に虚偽の後見事務報告を行った。

03年から15年の間に横領事件を起こした会員は少なくとも18人いる。横領金を返済すれば内々に終わらせるケースもあり、横領の実数はもっと多いとみられる。12年に逮捕された沖縄県の会員は県司法書士会の元会長で、4人の口座から1億2350万円もの大金を横領、懲役4年の実刑判決を受けた。14年度には3件の不祥事が公式に発表されているが、うち1件は岡山県支部元役員が5千万円を横領したというものだった。

とくに開いた口がふさがらないのが、リーガルのナンバー2のM専務理事の横領事件だ。

M氏はリーガル創設時からの主要幹部。司法書士の専門誌「月刊司法書士」に成年後見に関する署名論文を発表するなど成年後見制度の旗振り役だった。高齢者を守る運動の先頭に立つ人物が高齢者を食い物にした深刻な事件にもかかわらず、M氏の所業は、ほとんど表沙汰になっていない。

東京法務局長名の「懲戒処分書」(16年7月28日)によると、M氏は12―15年にかけて、被後見人3人の口座から約2387万円を横領し「自己のために費消」。東京法務局長は、M氏の行為は「業務上横領罪を構成」し「司法書士及び成年後見制度の社会的信用を著しく損なう」と批判したが、処分は業務禁止止まり。その後、M氏は司法書士を廃業したという。

リーガルは内閣府の公益認定により信用を付与され、税制上の優遇措置を受けている。「これだけ次々に不祥事を起こしているリーガルが、なぜ公益法人認可を取り消されないのか不思議」(一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表)との声が上がるのも当然だ。

本人拒否でも「通帳見せろ」

相次ぐ横領事件の防止策として、リーガルは、会員が成年被後見人から預かっている通帳のコピーを添付して本部に報告させる一方で、成年被後見人の通帳原本を担当司法書士立ち会いの下に本部が確認する「原本確認調査」を始めた。

だが、「個人情報の最たるもの」(ある司法書士)ともいえる預貯金通帳を、成年被後見人本人の同意を得ずに本部が確認する原本確認調査については、リーガル内部からも「プライバシーの侵害に当たる」と異論が続出。コピーを添付して報告することについても反対者が相当数いる。

『本当は怖い! 成年後見』の著者の仲島幹朗司法書士が言う。

「後見人を監督するのは本来なら家裁つまり国の仕事なのに、家裁にその人員と能力がないため、一民間団体に過ぎないリーガルに丸投げしているのが実態。預貯金通帳は本人のプライバシーそのもので家族にとっても将来、相続財産になるかもしれないお金。国の機関でもないリーガルに法的根拠もないのに提出しろという方がおかしい」

しかしリーガル執行部は、報告に応じない会員を「報告義務違反」を理由に次々に除名。その数はすでに約30人に上るとみられる。今年6月の総会でも新たに3人が同じ理由で除名された。これに対し反対派は、2年前の総会での除名決議の取り消しを求めて東京地裁に提訴するなど、対決姿勢を強めている。

原告代理人の山川幸生弁護士はこう語る。

「成年被後見人等が嫌だと言っている内容を報告することは、本人利益に反し、後見人の利益相反行為になると考えます。会員を監督したいなら、会員自身の通帳をリーガル本部に提出させて、会員の経済状況を把握すべき。成年被後見人等の意思を無視したコピー提出はプライバシーの侵害で許されないでしょう」

リーガルが行うべきは不正を防止しつつ被後見人本人の意思をどのように尊重していくかを真剣に考えることだろう。ところがリーガル執行部は「徹底的に話し合うことなく、多数決で反対派を除名して終わらせようとしている」と山川氏は言う。

先の宮内氏は「成年被後見人の本人意思の尊重は、日本も批准した国連の障害者権利条約や後見人の在り方について定めた民法858条で最重要の原則になっている。本人意思を無視するリーガルには後見に携わる資格はない」と話す。なおリーガル側は、本誌の取材申し込みと書面による質問を双方とも拒否。理由の説明もなかった。

リーガルでは横領事件多発で、徹底解明や再発防止を目指し外部有識者による会議が設置され、16年9月に報告書が出ている。「組織文化を見直すべき」「解体的出直しが必要」と非常に厳しい内容だったが、リーガルの現理事30名のうち24名は報告書以後に再任されており、組織文化も変化がないようだ。こんな団体が“後見の受け皿”で大丈夫か。

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長谷川学

ジャーナリスト

   

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